研究課題/領域番号 |
25380946
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
大貫 敬一 東京経済大学, 経済学部, 教授 (40146527)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ロールシャッハ・テスト / 対象関係 |
研究概要 |
本年度は、研究の最終的な目的である対象関係発達尺度を作成する過程の一段階として、対象関係尺度の一つである、Mutuality of Autonomy Scale(以下、MOA)に関する研究を行った。MOAは、精神分析的な対象関係論に基づく代表的な対象関係尺度で、対象関係の発達水準をScale point 1の独立して相互性のある関係レベルからScale point 7の破壊的関係レベルまでの7段階で評定するものである。MOAは、これまで被虐待児童・青年をはじめとする、さまざまな臨床群の被検者に用いられており、妥当性があるとされている。しかし、Holaday et al(2001)は、従来用いられてきた評定のためのガイドラインが、評定者間一致率の低さ、スコアリングの難しさ故に不正確なスコアリングになりがちなことなどの問題点を指摘し、評定者の一致率が高いHoladay et al(2001)(Revised MOA Scoring Guideline)を作成している。 本年度は、このガイドラインに基づき、非患者成人と臨床群の被験者の実際の反応を検討することによって「MOA日本語版評定ガイドライン」を作成した。作成したガイドラインでは、Holaday et al(2001)の「改定ガイドライン」の各水準の定義や解説をさらに明確になるよう修正すると共に、日本人被検者を対象に用いやすいように日本人被検者の反応例を追加している。このように作成した「MOA日本語版評定ガイドライン」は、Holaday et al(2001)の「改定ガイドライン」と同等の高い評定者一致率を示すことを確認している(未公刊資料)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画はおおむね順調に進展しているが、本年度の研究はMOAの検討に時間を費やしたため、当初、本年度中に行う予定であった人間関係指標の検討や認知や情緒の発達理論に関する検討が完了しなかった。これらの検討を次年度に継続して行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
MOAは精神分析理論に基づく尺度であり、統計的な方法になじまないという意味で実証的ではなく、また、単独で現実の対人関係や内的な対象関係の全てを評価するには限界がある。対象関係はその人の情緒や認知のあらゆる側面を統合した結果であると考えられることから、対象関係発達尺度の作成に当たっては、現実の対人関係のあり方を反映する人間表象反応指標や、対象関係発達の基盤となる認知と情緒の発達理論を組み込み統合する必要がある。 ロ・テストに現れる認知や情緒の発達に関する理論としては、例えば、Leichtman(1988)のロールシャッハの3段階、Friedman(1952)のWaやW+などの把握型による発達の水準の考え方、Meili-Dworetzki(1953)のロールシャッハ反応が複雑さと分化を増す図式、Klopfer et al.(1954)の陰影反応に示される愛情欲求の成熟や分化の程度を示す基本的安全感と情緒的統合に関する理論などがある。これらの考え方や図式を理論的に検討し、対象関係発達尺度としてどう組み込むことができるか実証的な研究を進めていく。 本年度の最初のステップの研究として取り組むのは、非患者成人を対象として、W領域とD領域の反応の割合などの把握型の特徴の検討である。把握型は認知の発達を端的に示すもので、情緒の発達の基礎をなすと考えられることから、上記の認知や情緒の発達を示す諸理論を検討する第一段階の研究となる。
|