研究目的である対象関係評価尺度はいくつかの尺度や指標によって構成する予定である。その作成に至る前段階として、人間表象反応とそれに関連する指標がどの程度有効な尺度や指標になり得るか検討した。検討にあたっては、非患者成人群、統合失調症群、双極性障害(気分障害)群の3群の被検者のロールシャッハ反応を比較する方法を用いた。 比較の指標に関しては、(1)片口法で定義されたP反応である図版Ⅱ、Ⅲ、Ⅶの人間像反応、(2)H%、すなわち、H+(H)+Hd+(Hd)の出現率、の2つを現実の対人関係の知覚を反映する主要な指標として選んだ。また、内的対象関係を反映すると考えられる指標として、これまでに研究を行ってきた Mutuality of Autonomy Scale における Level 1の反応を選んだ。Level 1の反応は、2人の人間像の相互的な関りが動きによって示されているという点で、それ以外の人間像反応よりも、より内的な人間関係の体験や知覚を示すと考えられる。それらの指標に関して3群を比較した結果、どの群の被検者も、他者への関心、他者のある程度正確な知覚という点では大きな差がなく、各群の多くの被検者が対人関係を結ぶ上で、少なくとも潜在的な能力を有していると考えられた。しかし、統合失調症群と双極性障害(気分障害)群の被検者においては、作話的な人間関係の記述、過剰な情緒の投影、破壊的衝動などが、人間関係の知覚や体験を歪めたり困難にしていると推測された。
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