研究課題/領域番号 |
25380952
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 駒沢女子大学 |
研究代表者 |
須藤 明 駒沢女子大学, 人文学部, 教授 (20584238)
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研究分担者 |
岡本 吉生 日本女子大学, 家政学部, 教授 (20315716)
村尾 泰弘 立正大学, 社会福祉学部, 教授 (30308126)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 講師 (60586189)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 情状鑑定 / 判決前調査 / Mitigate Specialist / 量刑判断 / 効果的な処遇 / 刑事政策 / 国際情報交換(米国) |
研究概要 |
平成25年度は,通算で8回の研究会を実施し,我が国における情状鑑定の課題について整理するとともに我が国でかつて行われた判決前調査の導入に関する議論を整理した。その際に情状鑑定を依頼した経験のある弁護士や,情状鑑定の経験豊富な臨床心理士を講師として招聘し,討議を深めた。以下,研究計画に従って,研究実績を報告する。 まず,「情状鑑定事例の質的分析」については,研究員が担当した事例の質的分析に入る前段階として,裁判員裁判導入前後における情状鑑定を巡る環境の変化,情状鑑定を実施する場合の留意点,公判における鑑定結果の説明の在り方等について包括的な討議を行った。次に,弁護士,元裁判官など法律家を対象としたアンケート調査若しくはインタビュー調査に関しては,埼玉弁護士会の協力を得て弁護士にアンケート調査を実施した。現時点での回収率は低く,この点は,情状鑑定を行った刑事裁判にかかわった経験のある弁護士が少ない,情状鑑定に対する関心が低いなどの原因が考えられる。なお,元裁判官への調査は実施していない。当初,現職裁判官へのインビューを模索したが,情状鑑定命令を出した経験のある裁判官が見つからなかったため実施に至らなかった。3点目として関係機関,施設への訪問については,一部の研究員で「独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園」を訪問し,知的障害者の犯罪と更生の現状を調査した。 その他として,日本司法福祉学会において,同学会に招聘された米国の司法ソーシャル・ワーカーValarie Mitchell氏を交えて「裁判員裁判制度と判決前調査」をテーマに分科会を実施した。Mitchell氏からは,米国におけるMitigate Specialistの役割や弁護士との連携に関する発表を,本研究員からはわが国おける情状鑑定の実情や課題に関する発表をそれぞれ行い,フロアと活発な議論が展開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していた研究は,①情状鑑定事例の質的分析,②弁護士,元裁判官などへの調査,③関連機関,施設への訪問の3つを柱としていた。①については,個別事例の分析まで行えなかったが,情状鑑定を取り巻く状況など総論的な整理はできており,今後,情状鑑定の在り方に関する具体的な提言をするに当たって,実施事例の分析が不可欠となる。したがって,平成26年度中に作業を進めていければよいと考えている。 ②については,弁護士へのアンケートを不十分ながら実施しており,平成26年度も引き続き対象者を拡大することで対応していく。また,実施できなかった元裁判官へのインタビュー調査は,平成26年度に実施することとした。 ③については,少年刑務所などの関連機関へ訪問調査が未了であるため,平成26年度に実施する予定である。 その他,日本司法福祉学会の分科会で,米国の司法ソーシャルワーカーValarie Mitchell氏と意見交換できたことは,われわれの研究にとって大きな意義があった。米国では,判決前調査制度のほかにMitigate Specialistと呼ばれる専門家が弁護士と協働する形で被告人の生活史や環境面での問題を明らかにして,その報告書が情状酌量の資料として活用されている。わが国の場合,弁護士から依頼された情状鑑定の場合,拘置所での面接場所,時間などで大きな制約を受けるが,分科会での議論を通じて,米国の場合には,情報収集するための社会的基盤(インフラ)が整理されていることが明確になった。さらには,平成26年度に米国を訪問する際に,Mitchell氏が我々の調査に全面的な協力をしてくれることとなっており,本年度を踏まえたより詳細な研究を行う足がかりにもなった。 以上から,いくつかの点で当初の計画よりも遅れている面はあるものの,総合的には順調に進展していると総括できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に進めた「情状鑑定事例の質的分析」,「弁護士,元裁判官などへの調査」,「関連機関,施設への訪問」を継続するとともに,米国を訪問し,判決前調査制度の実情等について調査をする。具体的には,①「Valarie Mitchell氏のAttorney's Officeを訪問しての調査,②The Seattle Municipal Court Probation unitの訪問調査である。①に関しては,昨年の司法福祉学会で司法ソーシャルワーカーの役割について概括的な話を聞いているが,今回の訪問では,より具体的にその活動について伺うとともに,弁護士等の協働作業などの観点から,わが国における弁護士からの依頼による専門家証言(鑑定)の活動との比較検討を行う。②に関しては,Probation Officerへのインタビューを通じて,判決前調査の歴史的変遷及び,司法手続きの中での活用実態と課題等について調査する。また,裁判官にもインタビューし,裁判官から見た判決前調査の評価や課題を聴取する。 その他,犯罪者の家族に対する支援や治療的介入の状況,犯罪者の更生における判決前調査などのアセスメント資料の活用状況などについても調査する予定である。 以上の研究を踏まえて,米国における判決前調査,多様な専門職のかかわりについて整理し,わが国の現状に照らした情状鑑定のあり方について検討する。その上で,情状鑑定の準備から報告にいたるまでのガイドライン策定に着手していく。また,判決前調査制度をわが国導入することの有効性,導入していくうえでの課題について法律家との交流を図りつつ,研究を深めていく予定である。 なお,平成26年度も日本心理臨床学会,日本司法福祉学会で本研究に関するテーマでシンポジウムを開催する予定であり,本研究の過程で得られた知見や問題意識を積極的に学会で投げかけていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
アンケート調査の集計に伴う費用や関係機関見学費用が見込みよりも少なくなったため。 米国出張調査に伴う通訳費用が約20万円見込まれており,25年度の繰越金額を通訳費用として充てていく予定である。
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