箱庭療法の重要な治癒的要因とされているものうち、セラピストークライエントの関係性について、NIRS (近赤外分光法)を用いて検討した。NIRSの箱庭療法への応用は、先例のない試みであり、実験プロトコルから解析方法、解釈まで、試行錯誤を重ねた。その結果、特に最終年度は、個々セラピストークライエント・ペアで得られたデータを丁寧に詳細に検討した。その結果、多数例の平均数値を得て統計的な処理を行うよりむしろ、多くの発見が得られたと考えている。 (1)箱庭制作者の制作のプロセスでは、前頭葉ー側頭葉ネットワークにより、イメージの再構築・箱庭上での表現が行われる。 (2)箱庭制作を見守っているセラピストの前頭葉・側頭葉の脳活動も変動し、制作者の脳活動との間に、他人同志の脳としては顕著な相関(最大で0.3~0.4)が認められた。 脳計測のデータを個々の事例検討の形で行うということは、通常の基礎神経科学からすると大きなパラダイム・シフトであり、神経科学と臨床心理学の統合の1つの試みである。このような学際的な試みの1つがニューロサイコアナリシスという新しい分野である。その観点から、過去の臨床事例の再検討も行ってきたが、セラピストと箱庭制作者の間に、脳レベルでの相互作用があるということは、臨床事例でのセラピストによる逆転移の1つの根拠となり得るものであり、今後、箱庭療法のプロセスを研究する際の、新しい視点となるであろう。 今後は、さらに実験参加者を増やし、箱庭療法に関係する脳活動の個別性と普遍性の両方を見ていくこと、また、実験方法や解析方法について、確立を図り、NIRSを用いた箱庭療法研究の普及ができるようにすることを考えている。
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