我々は、がん患者に実施したニーズ調査を基に、実存的苦痛に焦点付したグループ療法プログラムを作成した。本研究では、乳がん患者を対象にこのグループ療法プログラムを用いて有効性を確認するとともに、心理的苦痛が改善するプロセスを明らかにし、また、グループ療法の効果が乏しい群の要因を明らかにすることを目的とした。まずグループ療法の効果では、がんへの対処方略尺度(MAC)の絶望感が高い群でSELT-M(スピリチュアルQOL尺度)の全体QOLが介入後に改善し、その効果は1か月後も持続した(第16回国際サイコオンコロジー学会にて発表)。次に、グループ療法による効果が乏しい群について質的な評価を行うため、グループ療法により心理的変化が見られた事例を抽出した結果、心理的変化を妨げる「自己や世界に対する中核的な信念や価値観」などより内面的な課題に気づき、過去についての語りなおしから信念・価値観の修正が行われ実存的苦痛の緩和へと至るパターンが見出された(第29回医学会総会にて発表)。そこで、H27年度は、グループ療法プロセスの特徴を明らかにするため、ピアサポートプログラム(寄付を集めるチャリティ事業)実施がん患者に半構造化面接を実施し、修正版グランデッド・セオリー(M-GTA)により分析を行った。その結果、サポート受領から提供への態度変換が岐路となり、人生の意味の再構築に至ることがわかった(第17回国際サイコオンコロジー学会にて発表)。併せて、グループ療法参加者についても会話記録をM-GTAにより分析を行った。その結果、「がん罹患以前に抱えていた課題に向き合う」「役割・居場所の気づき・再確認」等を通して「現状の自己の肯定」がなされ、新たな価値観や生き方へと至るプロセスが明らかになった。グループ療法では罹患以前から抱える内面的な課題への気づきと現状の自己肯定を促すことが重要であることが示された。
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