研究課題/領域番号 |
25380962
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研究機関 | 京都文教大学 |
研究代表者 |
松田 真理子 京都文教大学, 臨床心理学部, 准教授 (40411318)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アットリスク精神状態群 / 未治療期間(DUP)短縮 / 前駆症状 / 自我親和的症状 / 幻覚 / 妄想 / 心理的介入 |
研究実績の概要 |
筆者は精神病顕在発症を予防するための早期介入の推進のためには精神病未治療期間(duration of untreated psychosis : DUP)が長くなる要因と、DUP短縮のための工夫点を生徒本人の病前性格、精神科受診に対する本人と両親・関係各者の捉え方、精神疾患に対する理解度の向上、治療意欲の継続、医療機関との協力関係の形成能力育成も視野に入れた観点から見出し、それらを心理面接の中に導入することを検討した。今回、筆者らは平成25年度にアットリスク精神状態群のDUP短縮の心理療法的面接法の開発の一環としてPRIME-Screen日本語版を380名の大学生を対象に施行し、リスク陽性者を抽出したデータをさらに詳細に検討した。また、半構造化面接に応じた3名の被験者の有する前駆症状の内容と自我機能を把握することを試みた。なお、本調査は「アットリスク精神状態群の未治療期間短縮のための心理的面接法の開発 ―リスク陽性者を半構造化面接と投映法から検討する」というタイトルで、日本心理臨床学会第33回秋季大会(平成26年8月24日、パシフィコ横浜)で連携研究者・山路有紀(京都文教大学学生相談室)と共にポスター発表した。 大学生を対象に平成26年5月にPRIME-Screen日本語版を講義中に配布し、男子32名(平均22.5歳)女子103名(平均20歳)合計135名(平均 21.1歳)から回答を得た。リスク陽性者10名のPRIME-Screen高得点の質問項目は自己不全感、現実検討能力低下、被害関係念慮、被影響体験、迷信、幻聴の順であり、平均値が1位は5.6、2位は4.6、3位は3.7であるが、4位以下は低い値である。本調査の結果を9th International Conference on IEPA(The International Early Psychosis Association Inc)国際早期精神病学会第9 回大会(平成26 年11月17 日~19 日)においてポスター演題発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者らはアットリスク精神状態群のDUP短縮の心理療法的面接法の開発の一環としてPRIME-Screen日本語版を2014年度は135名の大学生を対象に施行し、リスク陽性者を抽出した。リスク陽性者29名のうち、半構造化面接について本人の同意を得ることができた者は14名おり、そのうちの10名に平成26年6月~9月にかけて半構造化面接とバウムテスト、風景構成法を行った。半構造化面接から症状の詳細な内容、調査対象者の生育歴、病前性格、生活習慣、社会適応能力、バウムテストやLMTからは自我機能や現実検討能力の観点から臨床像を検討し、DUP短縮につなげる工夫点の一助にすることとした。今回の調査ではリスク陽性を示した被験者が21.4%であったがリスク陽性者のCAARMS またはSIPS/SOPSを用いての半構造化面接は行っておらず、リスク状態の把握を行った上でDUP短縮の工夫点を目指す必要がある。筆者が平成19年度から21年度にかけて科学研究費補助金基盤研究C(課題番号:19530638)「アットリスク精神状態群(ARMS)に対する精神病顕在発症を予防する心理的面接法の開発」の研究代表者として遂行した研究により見出した前駆症状の中で幻覚様症状を主訴とするクライアントは顕在発症が抑えられる傾向があるのに対し、妄想様症状を主訴とするクライアントは顕在発症しやすい傾向があるという考察をもとに幻覚様症状と妄想様症状の経過について精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の調査研究に引き続き、平成27年度もアットリスク精神状態群のDUP短縮の心理療法的面接法の開発の一環としてPRIME-Screen日本語版を大学生を対象に施行し、リスク陽性者を抽出して、さらに半構造化面接に応じた調査対象者の有する前駆症状の内容と自我機能を把握することを目的とする。昨年度の調査ではリスク陽性者の割合が約21.4%であったことを踏まえ、今年度も同様の数値となるのか、異なる数値となるのかを比較検討し、その差異について多角的視点から精査していきたい。なお、平成27年度の大学生を対象とした質問紙調査ならびに半構造化面接結果は「アットリスク精神状態群の未治療期間短縮のための心理的面接法の開発 第2報 ―未治療期間(Duration of Untreated Psychosis; DUP)の要因となる自我親和型の障害について検討する―」というタイトルで日本心理臨床学会第34回秋期大会(平成27年9月 於:神戸国際会議場)においてについてポスター発表予定である。 さらに精神科受診につながりにくい自我親和的な前駆症状の内容を精査し、人格構造、社会適応、認知的側面からの検討も加え、DUP短縮につなげるための工夫点を見出すことにある。水野(2009)は非特異的徴候の出現する前駆期では、不安、焦燥などの神経症的症状や、抑うつ気分などの気分変調、意欲の変化、認知の変化、注意力や集中力の低下、食欲低下や不眠などの身体症状、社会的役割機能の低下、社会的引きこもりなどの徴候が認められることを指摘している。受診につながりにくい自我親和的な前駆症状を呈する学生に対し、WAIS-Ⅲからは言語性・動作性下位尺度による知的諸機能の側面、バウムテストや風景構成法からは自我機能や現実検討能力の観点から患者の臨床像を検討し、DUP短縮につなげる工夫点を考察する。そしてその研究成果を平成27年12月に東京で開催される日本精神保健予防学会でポスター演題発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の直接経費は120万円を計上していたが、海外研修の日時の都合が繰りあわず、国内学会発表が中心となった。また、9th International Conference on IEPA(The International Early Psychosis Association Inc)国際早期精神病学会第9 回大会が東京で開催されたため、旅費が当初の予定よりも低額で済んだ。物品費も当初の予定より低額で収めたため、平成26年度の繰越金は1,283,976円となった。よって平成27年度予算は当初計上していた直接経費110万円に繰越金1,283,976円を加算し、2,383,976円となる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年9月に神戸国際会議場で開催予定の日本心理臨床学会第34回秋季大会でポスター発表、ならびに平成27年12月に東京で開催予定の日本精神保健予防学会でポスター発表予定である。データを集積し、解析するためのSPSSソフト購入費、日本心理臨床学会参加費(研究代表者、研究分担者1名、研究協力者6名)、第19回日本精神保健予防学会参加費(研究代表者、研究分担者1名、研究協力者6名)、研究会開催のための費用として繰越金を含めた平成27年度の予算を充当する予定である。
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