研究課題/領域番号 |
25380980
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 智 京都大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70253242)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 記憶 / 作動記憶 / 音韻的作動記憶 / 長期音韻知識 / タイミング制御 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「音韻的作動記憶における音韻系列の保持メカニズム」と「長期音韻知識」の相互作用を、音韻のタイミング制御を軸にモデル化することにある。平成25年度は、記銘すべき非単語に含まれるバイモーラ頻度(日本語においてある2つの言語音が連続して出現する頻度)と、各モーラの提示タイミングを操作した直後系列再生実験によって、音韻的作動記憶における長期音韻知識の運用には、提示タイミングが重要であることを示した。自然言語の特徴を用いた材料には多くの要因が交絡すことをふまえ、平成26年度には、実験室において長期的知識を形成し、種々の要因を統制した材料を作成することで、問題の解決を試みた。具体的には、非単語を用いたヘッブ反復効果実験によって、音韻的作動記憶の長期音韻知識形成への貢献を検討した。ヘッブ反復効果とは、直後系列再生の実験中に、同一リストが他のリストを間に挟みながら繰り返し提示されると、その反復されたリストの系列再生の成績が向上するという現象である。この効果は、我々の長期音韻学習の基盤となるものと考えられている。一方で、近年、こうしたヘッブ反復効果は特殊な現象であり、バイモーラの学習には、別のタイプ頻度学習が関わっている可能性が指摘されてきた。平成27年度に行った実験において、ヘッブ反復の操作に加え、リスト内の位置における非単語の生起頻度を長期間の学習中に操作し、系列再生へのその影響も検討したところ、ヘッブ反復学習とは別に位置生起頻度の効果が学習の結果現れてくることが示された。これらの結果は、音韻系列の保持メカニズムが当初考えられていたよりも複雑で、多層的であることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、音韻的作動記憶と長期音韻知識の相互作用をタイミング制御を軸としてモデル化するという目的に向けて、3つのステップを設定している。平成25年度には、「長期音韻知識が音韻的作動記憶における音韻系列情報保持を支える場合」、平成26年度には、「音韻的作動記憶の機能が長期音韻知識の形成に貢献する場合」のタイミング制御の役割について検討した。研究実績の概要で示した通り、非単語を用いたヘッブ反復学習のパラダイムを用いて検討したところ、リスト全体に見られるヘッブ反復効果とは別に、位置生起頻度の効果が得られた。位置生起頻度の効果は、提示の位置、すなわちリスト内での提示タイミングの学習を反映しており、この効果は、長期音韻知識の形成過程を考える際にきわめて重要である。平成27年度は、「音韻的作動記憶と長期音韻知識の相互作用をタイミング制御を軸としてモデル化する」という目的を、特に、平成26年度に得られた、当初計画されていたものとは異なるタイミングの効果を含めて追求した。これらの現象を確立するため、ヘッブ反復効果と位置生起頻度の効果を同一実験内で独立に取り出すための実験を実施し、その現象を厳密な実験操作統制下において再現することに成功した。これらのデータは、英文原稿としてまとめられ、理論化の後、国際誌に投稿されている。
|
今後の研究の推進方策 |
音韻的作動記憶と長期音韻知識の相互作用をタイミング制御を軸としてモデル化するという目的を実現する。3年間のプロジュエクトを通じて、予想以上に新しい成果が得られていることから、それらを統合したモデルを提案するために、発展的な実験を実施することとした。具体的には、前述の位置生起頻度の効果に対する、提示タイミングの効果を検討する。このことで、タイミング制御によって支えられる音韻的作動記憶と長期音韻知識の相互作用に対する新しい知見が得られるものと考えられる。それらのデータを総括し,音韻的作動記憶と長期音韻知識の有機的関係をタイミング制御を軸にモデル化する。平成25年度に検討された「長期音韻知識が音韻的作動記憶における音韻系列保持を支える場合」のタイミング制御の役割については、すでに論文化し、論文審査中である。平成26年度に検討された「音韻的作動記憶の機能が長期音韻知識の形成に貢献する場合」のタイミング制御の関与についてもまた、論文化され、現在審査結果をもとに論文を改稿している。これらの論文の改訂作業を通じて、新たに得られたデータを理論的に位置づけることが可能となる。その際に、本研究成果の国際的視点からの意義を検討する。さらに、長期音韻知識における音韻系列の表現を検討し、系列順序情報というダイナミックな情報の長期記憶における表現を探ることで、本研究の記憶研究および認知心理学への貢献を示すことを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画通り実験を実施した結果、理論的に重要な新たな知見が得られた。その点を再度確認するための発展的追試実験の実施が望まれるが、これまでの研究の効率的遂行によって、直接経費が節約できており、その予算によって、実験を実施することが適切であると考えられた。
|
次年度使用額の使用計画 |
実験実施のための実験参加者謝礼および実験者への謝金、研究報告のための学会参加のための旅費として使用する。
|