オンライン音楽訓練コースが、人工内耳を装用する重度の難聴児と健聴児のピッチ弁別、情動的プロソディーの認識、騒音下の音声認識に与える影響について検証した。訓練条件と遅延訓練(統制)条件前後での検査結果を比較するクロスオーバー法を用いた本研究には、カナダ・オンタリオ州在住の6-9歳の健聴児54名と7歳の人工内耳装用児2名が参加した。健聴児においては、音楽訓練の効果は確認されなかったが年齢の効果が有意であり、モントリオール音楽能力検査バッテリー(MBEMA)の Scale得点を指標としたメロディー内の1音のずれの検出、MBEMAのContour得点を指標とした音の高低パターンの変化の検出、喜びを表現したプロソディーの認識得点は、年齢が上がるにつけて高くなった。今後も研究を継続し、より多くの人工内耳装用児の参加を得ることによって信頼性の高い知見を発表する予定である。 また、音楽を教材として利用する際に重要と考えられる、音楽のタイミング・パターンが音情報処理に与える影響について、カナダ・オンタリオ州在住の乳児と成人を対象として実験を行った。選好注視法によって検証した結果、生後6-7ヶ月児の女児は男児と比較して、音楽家によるタイミング表現が付与された歌よりもテンポが一定の歌に対してより長く注目すること、また家庭での音楽環境が豊かであるとタイミング表現なしの歌に対してより長く注目することが明らかになった。成人の健聴者を対象とした事象関連電位研究からは、旋律のタイミング・パターンが一定であると、ピッチのずれは自動的な前注意過程を反映するミスマッチ陰性電位を惹起したのとは対象的に、音楽家によるタイミング表現が付与された旋律では意識下の認知処理過程を反映する後期陽性反応を惹起し、音楽のタイミング表現がピッチ情報処理の深度に影響を与えることが明らかになった。
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