本研究計画は,呼吸をはじめとする他者の周期的な運動を無意図的に模倣する現象のプロセスを実証的に検討し,この周期的な運動を媒介とする対人相互作用が生起するメカニズム,およびこのような模倣現象が対人認知などに及ぼす影響を明らかにすることを目指している.本年度は,これまでの研究を発展させ,周期的な運動を媒介とする相互作用メカニズムを解析する手法を確立し,周期的運動を媒介とする多様な観点から相互作用プロセスを検討した.昨年度までの検討では,呼吸波形について呼気を1,吸気を0と離散化し,相互作用時の情報の流れを移動エントロピー(Transfer Entropy)により評価している.しかしながらこのような手法では呼吸動作の僅かな変化が対人相互作用に及ぼす影響を検討することが難しかった.そこで本研究では,これまでのアプローチを発展させ,呼吸波形の連続的な位相データを用いた相互影響過程解析の手法を構築した.呼吸波形のヒルベルト変換により位相を求め,これらの影響関係を方向統計学的手法の一つである角度相関係数を発展させた角度偏相関係数(partial circular-circular correlation)を用いて評価するというものである.この手法の有効性について,複数人の呼吸データ,および,呼吸と同様に周期性が見られる,複数個体のイルカの首振り動作や,集団でのダンス動作などにも適用し,本手法の有効性を確認した.その結果,周期運動を介した対人相互作用が時間とともに変化する様子が様々な現象において確認され,また,この影響関係は個体の社会的スキルを強く反映すること,個体の社会的な関係を強く反映していることが示唆された.このことは本手法が周期運動を介した対人相互作用メカニズムを解明する上で有効なツールとなり得る可能性を示している.今後は上記の成果を広く公表していく必要がある.
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