研究課題
本研究では,性ホルモンが認知機能に及ぼす影響を検討した。前年度までに,男性優位とされる頭の中で立体図形を回転させる心的回転課題及び実際のマウスの動きと反転して呈示されるディスプレイ上の軌跡を見ながら指定された刺激をたどるマウス反転課題の成績と胎児期の性ホルモンの影響を受ける指の長さ比との相関を検討した。その結果,心的回転課題においてのみ指の長さ比との相関が認められた。指の長さ比は主に男性ホルモンの分泌量の影響を受けると考えられていることから,本年度は唾液からテストステロンの分泌量を測定することにより,現在分泌される男性ホルモンの分泌量がこれら2つの課題成績に与える影響を調べた。その結果,両課題において唾液から測定されたテストステロンの分泌量との間に相関は認められなかった。これらの結果は,男性優位とされる空間認識課題の成績にテストステロンが及ぼす影響は限定的であることとテストステロンが分泌される時期によって課題成績に及ぼす影響が異なることを示している。また別の実験で,テストステロンの分泌量が意図とは無関係に目立つ刺激に注意が向いてしまう注意の捕捉現象に及ぼす影響も検討した。周辺に一瞬呈示される妨害刺激を無視しながら複数の非標的の中に紛れた1つだけ色の異なる標的を報告する時間的探索課題の成績は,女性に比べて男性のほうが優れている。そのため,この男性の優位性がテストステロンの分泌量に起因する可能性を検討した。実験の結果,テストステロンの分泌量は課題成績に影響を与えないことが示された。このことから,時間的探索課題を用いた注意捕捉の男女差は,性ホルモンとは別の要因によって生じる可能性が示唆された。
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Attention, Perception, & Psychophysics
巻: 78 ページ: 159-167
10.3758/s13414-015-0985-3