平成27年度は、選定を行ってきた妥当な人工音声を用いて、さらに「自己名に対する自動的反応」の性質について明らかにする実験を行った。とりわけ、視覚課題に集中している際に提示された自己名に対する自動的反応が、時系列のどの段階で生じるのかを明らかにする実験を実施した。「ひろし」を自己名とすると、自己名と最初の数モーラが同一であるものの他者名である「ひろむ」(類似自己名)や、最初のモーラから異なる「たけし」等の他者名による刺激セットを用意し、この問題にアプローチした。被験者の課題は、これまでと同様に視覚的刺激に注意を向け、聴覚刺激として提示される名前は無視するものとした。その結果、事象関連電位の潜時200ms前後より、自己名と類似自己名に対する反応は、他者名に対する反応と異なることが示された。その後は、潜時500ms前後より、自己名は、類似自己名(および他者名)とも異なる反応となることが示された。つまり、視覚課題に集中し、聴覚刺激を無視している場合であっても、自己名や自己名と類似のものが検出される、いわば、「怪しきを検出する」仕組みが働き、その後の段階でさらに、自己名のみに対して特異的な反応を生む仕組みとなっていることが示された(自動的な自己名の検出の漸進性)。これまでの一連の実験では、被験者の注意は視覚的課題に向け、聴覚刺激は無視する状況であったが、被験者が聴覚刺激に注意を向け、自己名以外の名詞(ターゲット)にのみ反応する実験を実施した。その結果、自己名は非ターゲットであるものの、反応対象のターゲットと類似の反応をはじめとする特徴的な反応を示した。それらの反応は、自己名への自動的な注意配分および反応抑制の過程と結び付けて解釈可能である。これらの新たな個別の成果およびそれらも含めた全体的な成果について、各学会や学術誌等への発表を行う準備を進めた。
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