本研究の目的は、「時間」と「内容」の情報を適切に統合してダイナミックな知覚世界を成立させている人間の脳の論理を、心理物理学的、実験心理学的手法を用いて解明することである。我々は近年、異なる感覚モダリティ間・異なる感覚属性間の特徴統合の時間周波数限界が2.5Hzと極めて低く、かつ感覚モダリティや属性の組み合わせに共通の値になることを発見した。本研究では、この感覚や属性の組み合わせによらない共通の時間限界が、「時間(いつ)」と「内容(なに)」の情報を並列的に処理したのちに統合するという脳の戦略を反映したものではないかという仮説を、「運動(ボタン押し)」という感覚・属性に共通した新たな指標を用いて検証した。今年度は昨年度に引き続き、この問題について「感覚-運動間の時間-特徴統合課題」を行って検討した。具体的には色、輝度、方位(視覚)および音高(聴覚)の交替刺激の変化するタイミングでボタンを押すという課題を行って、交替刺激の周期が高くなるにしたがって、ボタン押しのタイミングがどのように変化するかを調べた。その結果、感覚モダリティや属性によって共通の部分と、感覚モダリティや属性に固有の部分があることを見いだした。またボタン押しのタイミングのずれが、絶対的な時間だけでなく相対的な時間にも依存する可能性を見出した。これらの結果については現在引き続き詳細な分析を進めている。その他、「視覚と聴覚における感覚フィードバック研究‐時間遅延と質感変容‐」というタイトルで、日本バーチャルリアリティ学会のオーガナイズドセッション「VR技術に資する多感覚統合の認知科学研究」で依頼公演を行うなどした。
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