研究課題/領域番号 |
25381004
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 禎文 東北大学, 教育学研究科(研究院), 助教 (20235675)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近代ドイツ / 保守革命論 / ワイマール / タート / 文化批判 |
研究概要 |
20世紀前半のドイツ教育学の展開は、相対的にリベラルな改革教育学運動とナチによるその断絶、戦後における改革教育学運動の再評価という図式の下で議論されてきた。しかしすでに改革教育学運動研究によれば、その思想的起源は文化批判に見出すことができる。理論的指導者はPaul de Lagarde、Langbehn、Moeller van den Bruckらであり、彼らはいずれもいわゆる保守革命論へと発展する思想的傾向を持っていた。こうした観点からすると、進歩主義的な立場から解釈されてきたドイツ改革教育学運動はドイツ固有の保守主義的思想の果実として改めて解釈し直す必要がある。また相対的にリベラルな教育学から全体主義的教育学に転換するとの解釈されてきたKrieckに代表されるナチ的教育学も、その思想的・学説的展開をたどり直す必要がある。本年度の研究においては、雑誌Die Tatを主たる史料として、19世紀末から20世紀初頭にかけて教養市民層に広まった文化批判から保守革命論へと展開する思想的系譜に注目し、ドイツ教育学の基層および思考的フレームの一端を明らかにすることを目的とした。 今年度の発見は次の2点である。第一に、雑誌Die Tatの基調はドイツの民族性への回帰とその実践であった。単に保守的なイデオロギーを喧伝するのではなく、さまざまな実践や運動の中に見られる伝統的なるものを奨励し、その一方で西欧的な個人主義やドイツの伝統という現実に根づいていない実践や運動を批判するという立場が取られている。しかし、誌面構成からすれば海外情報も見られ、偏狭なナショナリズムは認められない。この意味では穏健な保守主義論を展開していた。 第二に、Die TatにはKrieckやOestreichなどの多様なライターを見いだすことができるが、基本的にドイツの民族性を共有し、少なくとも第一世界大戦終結時点まで、彼らは「ドイツ的なもの」を共有しつつ、新たな教育学ないし新たな教育制度を模索していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
雑誌『タート』におけるワイマール期の分析を中心に行ってきた。雑誌の目録作成作業はほぼ完成したが、記事の分析が当初の計画よりもやや遅れた。1910年から1928年までしか記事分析が進まず、1930年代以降の分析は次年度に繰り越すことになった。一般に雑誌分析に伴う困難さであるが、一つの記事を正確に読み解くために、周辺的な文献や資料を確認する必要があり、その膨大な周辺的作業に時間を要したためである。 学会報告は1回行ったが、論文を執筆するに至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画自体を大幅に変更する必要はない。ただし、平成25年度予定の作業に若干の遅れが出ているため、研究の速度を上げる必要がある。具体的には、雑誌『タート』の目録作成作業がほぼ終了しているので、今年度は記事分析作業に焦点を当て、7月までに分析を終了し、併せて『ドイツ展望』についても同時に同様の作業を進める。平成26年度に予定していた『世界舞台』『高地』の分析は予定通りに進める。ただし、計画を優先するあまり、個々の事象の分析が正確性に欠くことにならぬよう留意したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
原因は以下の3点である。1.予定していた海外での史料調査が出来なかったこと、2.図書の購入については校費等を使用したため、物件費(図書費)に残金が生じたこと、3.購入を予定していた雑誌史料(マイクロフィッシュ)の購入手続きが遅れたため(購入依頼を受けてから、マイクロフィッシュを作製するため、手許に届くまで時間がかかる)。 研究計画全体は順調に進んでいるが、より計画的に史料を入手・購入するなどの点に配慮する。次年度使用額は海外調査及び史料購入のための経費として平成26年度請求額とあわせ、使用する予定である。
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