本研究は20世紀前半ドイツにおける雑誌分析を通して、主としてワイマール時代からナチ時代に至る教育学説および教育実践の展開を思想史的に分析し、その意義を再検討するものである。主たる分析の対象とした資料は、保守革命論という社会的風潮を牽引した雑誌『タート』、またリベラルな思潮を代表する『世界舞台』の分析である。『タート』や『世界舞台』誌上におけるさまざまな論説の分析、とくに教育理論家の投稿論文や教育に関わる言説に焦点を当てて分析を行った。 研究の結果、『タート』誌にはドイツの教育改革(改革教育学)をリードした理論家の投稿が多数見られた。一方、西欧流のリベラリズムを基調とする『世界舞台』には、教育理論家の論考は少なかった。このことは、ドイツの教育改革理論が、リベラリズムよりも保守革命論に親近的であったことを示している。また、『タート』誌に名前を見出すことのできる理論家は、ドイツ・ロマン主義への回帰を主張する傾向が認められる。しかし、このことは偏狭な国家的イデオロギーへの積極的なコミットメントを意味するものではない。『タート』誌には西欧世界ばかりではなく、東洋世界の情報も掲載されており、教育理論家たちがグローバルな視点を持ちつつも、ドイツの文化的伝統を中心として、人間の教育と社会の建設を目指していたものと考えられる。1930年代以降、ナチ支配下においては国家の教育・文化政策として反ユダヤ主義が現れるが、ほとんどの教育理論家たちには反ユダヤ主義は認められない。さらに戦後における彼らの思想的立場を見ると、ドイツの文化に根ざした民主主義の教育理論の発展に努めた者、東ドイツにおいて社会主義の教育理論の発展に努めた者が認められ、偏狭な国家主義とは一線を画した理論、実践の普及に尽力したことが確認できた。
|