研究課題/領域番号 |
25381009
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柴田 政子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (30400609)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 歴史教育 / 学習指導要領 / 大学入試シラバス / 教科書 / ドイツ / イギリス / 日本 |
研究実績の概要 |
海外調査は8月に行った。後に詳述する通り、当初計画とは異なり今年度はこの回のみとなった。ドイツでは、歴史教育図書館で、終戦直後すなわち占領時期のの歴史教育指針に関する指導書(LehrplanまはたRichtlinien)や教科書の文献調査を行った。ここは昨年度調査したドイツ国際教育研究所(フランクフルト)の在ベルリン附属図書館にあたる。フランクフルトでの事前情報の通り、ここでは旧東ドイツ及び四連合国共同統治下であったベルリンに関する情報を多く収集することができた。また、東ヨーロッパの旧共産主義諸国における歴史教育政策についての比較検討という意味で、チェコでのユダヤ人関連機関での追加調査も有意義であった。 イギリスでの調査は、母校ロンドン大学教育大学院附属図書館アーカイブで、終戦直後~1960年代までの大学試験シラバス(Examination Syllabus)の調査を行った。教科書調査の結果と同様、1960年代からの歴史教科書には、第二次世界大戦に関する記述で、多くがナチス・ドイツの戦争行為に紙幅が割かれていた。またこの頃から、ナチス台頭の国内の政治的・社会的背景についての考察も多くなっていた。教育行政が中央集権的でない同国についての調査は地域ごとの調査となり、情報収集にも分析にも時間を要した。 国内調査は計画通り、1年を通して本務校の図書館及び教科書研究センター附属図書館(東京都江東区)で、歴史教科書と学習指導要領を照らし合わせながら政策変遷について調査した。同センターでは、いわゆる「墨塗り教科書」の原本のみならず、その削除基準となる文部省作成の指針文献は有益であった。 研究成果は、後述の論文1本(編著本)と2回の国内学会で発表した。また、こうした業績を踏まえて依頼が寄せられた2本の書評(海外1件、国内1件)でも発揮することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
如上の通り調査は行えたが、本来の計画では海外調査は2度にわたり行う予定であったものを2回目の調査を断念したため、分量的には対象となる時代と地域の限定という形に止めざるを得なかった。他方、ドイツやイギリスでも、現地アーカヴィストから得た貴重なデータベース情報をもとに、帰国後も継続した情報収集を行うとともに、来年度現地調査をより効率的に行う準備の進捗をみた。特にドイツに関しては、予想していた通り、第二次大戦に関わる歴史教育文献に関するデータベース化は、日・英とは比較にならない程進んでおり、「過去の克服」政策が戦後ドイツ(西ドイツ)の国是であったことが、このことからも理解できた。ただし、現地の研究所職員にデータベース・サイトの詳細についての実際の教示がなければ活用は難しく、本年度現地調査の意義は大きかった。国内調査に関しては、計画していた以上の頻度で、教科書研究センターでの情報収集を行うことができたのみでなく、既述の通り、予定していた以外の希少原本等の閲覧の機会があり、当初想定していた問題所在の視点をより広く据えた分析ができた。
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今後の研究の推進方策 |
既述の通り、実行できなかった昨年度第2回海外調査の分、具体的には1960年代以降の教育政策についての調査を集中的に行う。ドイツもイギリスとは異なった意味で、教育行政は中央集権的ではなく、州ごとの政策を追う必要がある。従って、今年度は、ドイツ国内のなかでは独特の地域アイデンティティをもち特徴ある文教政策を展開してきた南部・バイエルン州の政策を調査したいと考えている。時間的な余裕があれば、地理的な隣接という利をいかして、戦後同じく占領下にあったオーストリアでの追加調査も有益かと推察している。 国内調査は同様に継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来の計画では海外調査は2度にわたり行う予定であったものを2回目の調査を断念した。3月に予定していた第2回海外調査断念の理由は、渡航計画の最中である1月に、フランスでのイスラム系組織による報道機関襲撃に端を発するヨーロッパにおけるテロ脅威急増のためで、特にユダヤ人関連機関も主たる標的のひとつであることを鑑み、同時期の渡航は良策でないとの判断によるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度にあたる今年度に、上記計画に予定していた調査を行うが、本務校での大学院改組にともなう業務増加のため、渡航回数を増やすというよりは、1回の海外調査の期間を長くして、昨年度第2回に計画していた、主にドイツでの調査を行う。未使用額は、主にそのための旅費に充てる予定である。
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