現代的に熟した「自己実現」という日本語の歴史的原点は、1895年に倫理学者の中島力造がイギリス英語“self-realisation”を「自我実現」と訳して発表した時点にある。その後、自己実現思想は、明治・大正・昭和初期をつうじて「個人と社会との関係性」を問い続ける倫理思想として展開していたが、ファシズム期には「個人と社会との水平的調和」から「国家による国民の垂直的併合」へと転回させられる強制力が働いて、概念が大きく変質した。こうした歴史的経緯は、自己実現が専ら個人主義を象徴する言葉として扱われがちな現代的傾向を踏まえると、教育史的な基礎として新たな逆説的事実を発掘できたという点で重要である。
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