研究課題/領域番号 |
25381012
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
坂西 友秀 埼玉大学, 教育学部, 教授 (30165063)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心理学 / 教育心理学 / 民族 / 台湾 / 中国(延辺州) / 日本語教育 / 教育方法 / 教科領域 |
研究概要 |
今年度は、心理学が客観科学として実証的研究を基礎に置くことで、教育の方法の有効性の検証、児童・生徒の教科内容の理解の過程の解明にまで研究領域を拡大した状況を整理した。主に東京高等師範学校発行の「教育心理研究」に掲載された論文の整理と分析を行い、現在も継続中である。教科領域への心理学研究の浸透は、教育実践の「科学化」につながるものであり、教育心理学の固有の領域の確立に一役買っていた。また、教育方法の改善や有効性を調査・研究に基づいて実証的に明らかにすることによって、教育科学としての教育心理学の位置を確立する時期でもあった。その一方で、当時日本は、東アジアに「共栄圏」「文化圏」を作ることを大きな課題とし、東アジアへの進出を積極的に進めていた。その一環として、日本の教育を現地に普及することが急務であり喫緊の課題であった。教育心理学は、日本の教育を東アジアンの諸国に普及させるためには、中国、台湾、朝鮮における諸民族の生活・習慣・「知的能力」等の実態について明らかにし、理解することが必要であると考え、比較研究を進めていた。今年度は、中国(延辺自治州)、台湾における1920~1945年頃の現地における日本語教育と学校の実態について聞き取り調査を行った。台湾においては当時の学校が現在も改修されて利用されているなど、日本が及ぼした教育面での台湾・中国への影響は大きかったことがわかる。他方、延辺自治州は朝鮮族の住民の占める割合が大きく、今でも日本語を話す年配の人は少なくない。日本語教育がいかに深く浸透していたかが示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究遂行計画として、大きく2つあげていた。 一つは、1900年代前半に日本が大陸に進出した韓国や中国、台湾における日本語教育普及に果たした教育心理学の役割を、現地での聞き取りや当時の学校や教育施設の視察を通して検証し、関連資料の発掘を試みることであった。今年度は、台湾(台北、台中、高雄を中心とする)と中国の延辺朝鮮族自治州を訪れ、現地で当時の学校や教育内容について聞き取りし、使用されていた日本語教育に関わる資料を直接見ることができた。これにより、課題は残っているが、第一の目的はほぼ達成された。 第二には、1900年代初頭から中期にかけて、教育心理学は、客観的な実証科学として、教育内容や教育方法を分析し、教育実践に有効な資料を提供する時期にあった。このことを当時の心理学研究の整理と分析を通して明らかにすることを目的にした。現在進めている「教育心理研究」(東京高等師範学校)掲載の論文をその内容・関連する教科ごとに整理・分析しつつあり、当初の第二の目的も大旨達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、研究成果をまず学会で発表(日本教育心理学会・神戸大学開催)し、「教育心理研究」(東京高等師範学校)掲載論文の整理、分析の結果については、学会誌ないしは紀要に投稿し、学術論文として公表することを予定している。 日本の学校教育・教育実践における教育心理学の客観科学としての位置づけと、教育方法学研究としての有効性及び寄与・貢献は、戦時中の東アジア諸国(中国・台湾、朝鮮、南洋諸島等)への教育の普及に関わる研究、つまり異なる民族の文化・習慣に関する研究と密接に関係している。平成25年度は、東アジア諸国への1900年代前半の日本の教育制度・日本語語教育の浸透と拡大を教育心理学の関係を現地調査を通じて検討し検証した。 今年度は、繰り返し行われてきた戦争を介して、同じ国内に異なる民族が多く混在するヨーロッパの国々(例えばフランス・ドイツ)において、言語教育と心理学の関わりがどの様な状態にあったのか、現地調査を実施し、日本の教育心理学が1900年代前半において客観科学として教育方法学研究の基礎を確立していった過程と比較し、類似点と差異点を明らかにする研究を進めたい。日本の心理学自体が、ヨーロッパからの輸入であり、欧米の1900年代初期から中期までの学校教育における心理学の位置を明らかにする意義は大きい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度(平成25年度)は資料の収集と分析に集中したため、学会発表は行わなかった。そのため予定していた学会・研究発表関連の支出が予定より支出が少なくなった。 次年度(平成26年度)に学会発表を予定していおり、既に発表申請し受理されている。また、今年度に引き続き、教育心理学が、客観科学・実証科学として教育方法の検証・開発に研究領域を拡大し、教育実践により具体的で有用な実証科学として基礎を確立していく過程、教科教育に適用範囲を広げていく過程を明らかにする。並行して、日本が心理学を「輸入した」ヨーロッパ諸国(例えばドイツやフランス)の同じ時期(1900年代初期から中期)における心理学の学校教育・教育実践との関わり明らかにするために関連する海外調査も含めて実施したい。
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