本研究は、探究学習の効果をナラティブという手法により生徒一人ひとりの探究と思考の軌跡を明らかにすることを目指した。具体的に授業場面で生徒のワークシートでナラティブを記録し、その生徒のナレーションを分析・検討した。個々人の思考の軌跡は、一般的にはブラックボックスとされ、その思考の過程をあきらかにすることは、困難と考えられてきた。しかし、生徒のワークシートへの記述は生徒のいつわざる思考の過程を映し出している。それは、一つひとつのワークを他の生徒との全体での偏差値のような相対的な位置づけからは、明確ではないような個々人の主観性の世界なのである。たとえば、下北半島に住むある写真家の生き方は、一人ひとりの生徒の主体的な生き方に感情移入せざるをえない。その感情移入があって初めて葛藤場面に参加できるのである。この参加意識こそが、個々人をして主体意識を持たせるものとなる。ナラティブはこのような主観意識をあからさまに取り出す重要な方法である。 これは、どの発達段階においても重要な手法であり、生徒の思考が単にある概念や知識の獲得にとどまらず、感情的な背景を含む判断が含まれていることを意味している。この主観意識こそが生徒を評価するときに重要な評価情報となり、その評価の妥当性を表している。伝統的な評価は、この妥当性を欠いている。伝統的な評価法は、個人をそのような総体ではなく、あくまでも知覚の部分の一点の位置であったり、全体の正規分布での位置を見ているにすぎない。このような評価は生徒の主観性を無視した相対的な位置づけを確認するだけにとどまり、全体の意図と流れからは遠ざかってしまう。 他方、ナラティブはアチーブメントテストとは異なり、生徒の全体像をとらえることをめざす。その結果生徒の思考の軌跡を明らかにすることができた。生徒は、教師が想像する以上に、他者を見つめ、自己の影響力を見つめている。
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