研究課題/領域番号 |
25381021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小山 静子 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (40225595)
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研究分担者 |
石岡 学 弘前大学, 人文学部, 研究員 (00624529)
今田 絵里香 成蹊大学, 文学部, 講師 (50536589)
前川 直哉 東京大学, 経済学研究科(研究院), 研究員 (20739156)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高等学校 / 男女共学 / 男女別学 / ジェンダー / 学区制 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、戦後教育改革によって中等教育のジェンダー秩序がどのように構築されたのかを解明することを目的としている。その際に注目するのは、戦前の男女別学体制から戦後の男女共学体制への転換であり、そのために、旧制の中学校・高等女学校をそのまま新制の男子高校・女子高校とした地域、完全に男女共学化した地域、男女共学化しつつも前身校を反映させながら男女別定員を設けた地域、の3つにわけて、研究を進めている。 今年度は、福岡県久留米市、大阪府、東京都、和歌山市、鹿児島県の5つの地域の公立高等学校に関する研究を行ったが、これらの地域は新制高等学校の発足に際して、いずれも男女別学から共学へと転換したところである。しかし同じく男女共学といっても、その内実には大きな相違が存在していた。 久留米市では、男女共学制・小学区制が徹底されたが、地域にあった旧制中学を重んじる傾向や、私立の進学高校の設立、小学区制の撤廃によって、男女共学制は複雑な様相を呈していくことになる。大阪府は今回検討した地域の中では、もっとも男女共学制が順調に定着していった地域である。東京都は、都内を10通学区にわけて、それぞれの学区に複数の高等学校を配したが、それらの高校には、旧制の前身校を反映する形で男女別定員がしかれていた。和歌山市は、旧制の中等学校がすべて一端廃校となり、新たな学校として共学の高校を設立して厳密な小学区制をひいたという特徴をもつ。また鹿児島県では中等教育の再編の際には男女共学制や小学区制が堅持されたが、それゆえ従来のエリート層には教育への不満が蓄積し、結果的には私立の新しい高校の設立という形でその不満が解消されていった。 このように、同じく共学化したといっても、それぞれの地域の状況の違いにより男女共学の実態や課題、その後の展開には大きな相違があったことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、熊本市、神戸市、青森県津軽地方の研究を行ったが、今年度は、福岡県久留米市、大阪府、東京都、和歌山市、鹿児島県の5つの地域を取り上げた。この5つの地域はいずれも男女共学化しているが、その様相は全く異なった軌跡をたどっていたことが判明した。そしてその多様性は、旧制中学校を懐かしむエリート層や私立の進学高校の存在の有無、小学区制の存廃状況、地方軍政部の意向などに規定されていた。公立高等学校はそれぞれの地域の歴史や文化に支えられた教育機関であり、戦後教育改革も地域ごとの独自の展開があったと考えられるが、その多様性を探るうえでも、今年度の研究は意義があり、本研究課題は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度行った3つの地域と今年度行った5つの地域の事例研究から、旧制の中学校・高等女学校から新制の高等学校への転換における男女共学制の採用が、それぞれの地域事情に鑑みながら、多様に行われたことが判明した。またそれぞれの地域の歴史や文化だけでなく、占領政策の進め方の違いも大きく影響を与えていることも明らかとなった。 今後も、より多くの地域を取り上げながら研究を進めていきたいと考えるが、とりわけ、この2年間の研究では十分に進めることができていなかった、共学化しないで、旧制の中等学校を継承しつつ、男子高等学校・女子高等学校を設立した地域の研究を重点的に行っていきたい。そのことを通して、それぞれの地域で男女共学・男女別学に関してどのような議論がなされ、その根底にはどのようなジェンダー観が存在していたのか、考察していきたい。
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