本研究の目的は、閉塞する学校教育の「救い主」として世界的な注目を集めるシュタイナー教育について、その今日的意義を「能力」概念に着目し、理論・実践の両面から論証することにあった。具体的には、その教育の根底に置かれる〈原理(認識論等)〉と実際の〈教育方法・内容〉ならびに〈達成される能力〉との有機的な連関をグローバルな規模のアンケート調査によって解明していった。調査の対象は、国内外の初等・中等教育に属するシ ュタイナー学校と一般の学校の生徒ならびに教員とした。本研究を通して、今日的な能力概念である「キー・コンピテンシー」(OECD)とシュタイナー的能力概念との共通点と相違点が解明され、わが国が進める「生きる力 」の育成に貢献する具体的で実践的なオルターナティブとしての教育の在り方を提示することをめざした。 平成29年度は、本研究の集大成として、衛藤吉則著『シュタイナー教育思想の再構築-その学問としての妥当性を問う』(ナカニシヤ出版、2018年1月)を出版した。そこでは、シュタイナー教育思想の成立背景と実践的特徴を確認したうえで、従来の「教育学」「科学」「哲学」で論じられる学問的な概念に照らしてシュタイナー教育の理論・実践の妥当性を明らかにした。とりわけ、本研究でとりあげたシュタイナー教育の方法と内容が新たなWissenschaft(科学・学問)の可能性を有し、わが国の「生きる力」や国際的な「コンピテンシー」の育成に貢献しうることを論証した。 この研究成果は、すでに教育学領域で注目され、この4月27日には大阪府立大学からの招待講演(公開講座)において、「シュタイナー教育の実践的意義と学問的妥当性」というタイトルで講演することが決まっている。
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