本研究の目的は、1830年代に学位試験・授与機関として成立したロンドン大学が、試験実施組織から教育機能を有する大学(teaching university)へと再編される過程に焦点をあて、学位試験・授与の連合制原理と大学間連携による学士課程教育の質・水準保証の問題を歴史的に考察することである。 本年度は、昨年度ロンドン大学で収集した資料の分析を進め、ロンドン大学と中等教育の関係、いわゆる高大接続の問題について、ロンドン大学による学校査察、ロンドン大学入学登録試験の機能について明らかにした。ロンドン大学の学位試験は1858年以降、入学登録試験、第一試験、第二試験の3段階となったが、受験者の大半は入学登録試験のみを受験し、中等教育修了の証明としていたことが分かった。イギリスでは20世紀初頭まで中等教育の制度化に国家が果たした役割は相対的に小さく、中等学校の市場化が生じた。オックスフォード、ケンブリッジ大学が主導した地方試験と並んで、全イングランドだけではなく帝国に拡大されたロンドン大学の入学登録試験は、中等学校の教育水準の指標として利用された。この概要については、日本高等教育学会第18回大会(早稲田大学)にて発表した。 次に、市民大学として初めて単独の学位授与の勅許状獲得に成功したバーミンガム大学の成立過程について分析を行った。バーミンガム大学は地元の学生のための、地元産業に寄与する大学という、オックスブリッジとは異なる大学の理念を示し、地元の有力者から幅広い賛同を得、大学昇格に必要な寄付金を集めた。バーミンガムで採用された学位授与の方針は、19世紀までのロンドン大学とは異なるものであり、学位試験の成績のみではなく、学期中の課題提出等を含めた総合成績で学位授与の認定を行い、教育水準の維持と学位取得の促進を図った。この研究成果については、教育史学会大会にて報告し、論文としてまとめた。
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