研究課題/領域番号 |
25381062
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
光本 滋 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (10333585)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大学の自治 / 大学法制 / 大学評価 / ガバナンス改革 / 教育政策 / 高等教育 |
研究実績の概要 |
2015年度は、以下の内容について、国内外の学会において研究発表を行い、成果を論文等にまとめた。 第一に、引き続き、2014年の学校教育法・国立大学法人法改正の内容と影響について解明・考察した。国立大学の法制史的な観点からは、今回の法改正の目的は、学長選考会議・学長に対する大学構成員・機関の意思による拘束を解除するために、個別大学に内部規則の改正を行わせることを目的としたものと結論しうる。しかしながら、国会審議における政府見解や施行通知からは一義的にそうした意図を読み取ることは難しい。それにもかかわらず、法改正後、各大学(国立大学)は一律に教員選考を教授会の審議事項から除外したり、学長選考の過程で意向投票の結果を尊重する規定を廃止している。これら内部規則の変更は、政府見解や通知とは異なる内容を含む行政指導によるものである。 第二に、中期目標期間の区切りを目前にして行われた、国立大学法人の目標・評価の実態を整理し、問題点を明らかにした。すなわち、国立大学法人評価委員会は法人法(準用通則法)が定める中期目標期間の業務実績に関する評価を行っていない。にもかかわらず、文科省は国立大学法人の「組織及び業務全般の見直し」に関する検討結果を大臣決定(2015年6月8日)として打ち出した。この大臣決定は、人文・社会科学系および教員養成系の学部等の組織の縮小・廃止を含んでいたことから、内容の不当性が社会問題化したが、問題はそれにとどまるものではない。法的に必要な手続きを踏んでおらず、各大学が第3期中期目標期間の目標の下敷きにすることとされた「ミッションの再定義」も法的根拠を持たない。このように、組織の改編を含む国立大学の改革が行政指導により行われていることは、今日の大学政策が法人法制によってはなしえない大学の組織運営に関する介入を内容とするものになっていることの証左である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大学政策の展開が、法人化による大きな変化である教育研究組織のあり方と、財政・評価・管理機関の意思決定の関連に関する理論的・実証的な知見を得ることを課題としている。このような課題に関して、2015年度までの研究の進捗状況はおおむね順調であった。 このように判断する根拠は、大きく以下の三つである。第一は、研究の基盤となる個別大学の改革の動向や内部規則の変更に関する文書資料の収集・整理が一定の規模・水準に達したことである。第二は、第2期中期目標期間の途中で行われた学校教育法・国立大学法人の改正、および国立大学法人評価の動向に関して、緻密な検討を行い、法人法制と大学ガバナンスの動態に関する理論枠組みを抽出したことである。第三に、以上のような研究成果の発表、情報発信を精力的に行ってきたことである。 ただし、当初実施する予定であった個別大学を対象としたアンケートは未着手である。この間、行政サイドは、法人法制の枠組みを逸脱する目標・評価制度の運用や、政策意図を徹底するための指導が行っていることから、公式には、これらを否定するような見解が得られるとは考えにくい。より適切な調査方法を検討する必要がある。また、個別大学の動向を総合的に理解するための調査は、いくつかの大学に関して着手したものの、その成果を整理・公表するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2016年度は、以下の二つを中心に研究をすすめる。 第一に、内部規則の変更が、各大学の組織運営に及ぼした影響の解明にとりくむ。教授会の審議事項から教員選考が除外されたことにより、全学的な人事の方針決定、運用が行われるようになっているのか、行われている場合、教授会における審議内容にどのような影響を及ぼしているのか、内部規則の変更の内容と研究・教育組織の再編との関係はどのようなものか等、これまで集約したデータの整理をすすめ、分析を行う。なお、内部規則は主に国立大学のものを収集してきたが、それらにも一部欠落があるため、欠落を埋めるための資料調査(内部規則等の提供依頼、聴き取り等)を行う。 第二に、大学法制および政策との関係で、個別大学の組織改編がどのように展開しているのかについてのケーススタディである。組織改編を規定する要因は、「ミッションの再定義」等の行政指導、大学財政、地域の要望、競合する他大学との関係など複数あり、一般化することはできないと思われる。とはいえ、各大学に共通する問題を浮き彫りにすることは可能だろう。また、このような作業の結果と国立大学法人評価をはじめとする大学評価の結果をつきあわせ、大学評価の問題点を明らかにしていく。 これらについての成果を、学会等における口頭発表および研究論文としてまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
個別大学を対象とするアンケートが未実施となったことに伴い、予定の経費を支出しなかった。その結果として差額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
個別大学を対象とするアンケートを実施するかどうかについては早急に結論を出す。実施する場合には、アンケートの作成・実施のための経費を支出する。経費の内容は、印刷費・郵送費、および調査票の回収後のデータ入力・整理を行う研究補助者の人件費である。実施しない場合には、個別大学の組織運営を総合的に検討するための訪問調査にかかる旅費、収集資料、聴き取り内容の整理のための研究補助者の人件費として支出する。
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