最終年度は研究成果の発表・普及に努めた。 (1)雑誌論文を2編執筆した。「国立大学の危機―構造と事態打開の方向」では、国立大学法人制の目標・評価制度の枠外で政府が評価と予算措置を行っている状況の問題を明らかにし、評価制度とガバナンスの改革の方向を示した。「国立大学の財政危機と人件費削減問題」では、第2期中期目標期間から第3期中期目標期間にかけて国立大学が陥っている財政危機が、運営費交付金の制度改革に起因すること、債務情報と評価制度が財政危機の実態や原因の解明につながらないことを解明した。 (2)学会発表を2件行った。日本教育政策学会では、法定の大学評価を経ずに行われている国立大学の研究・教育組織改編の問題を指摘し、こうした組織改編を強要する政策を是正するための立法・運用上の留意事項を明確にした。大学評価学会では、大学評価の動向および政策の批判的検討の結果を総括し、市民的大学評価論の確立に向けて留意すべき大学評価の方向、および制度の検討のポイントを述べた。 (3)上記のほか、国内外に向けて学術成果の発信、学術交流を行った。国際的な発信としては、北海道大学と中国人民大学(北京)との国際学術交流シンポジウム(2017年2月)において発表を行い、日本の高等教育改革の動向に関して歴史的・構造的に考察するとともに、東アジアにおける比較研究の課題を探った。国内では、文化講演会「学問と教育の危機―「文系廃止」問題の本質」(2017年7月)において、今日の大学改革において規制力を持っている「文系廃止」論の問題を、制度・政策の観点から明らかにした。 (4)国立大学法人を対象としたアンケート調査は、現状においては実施しても印象的・形式的な回答しか期待できないことから取り止めた。代わりに資料収集をさらに進める手続きについて法律実務家と研究会を行い、情報開示請求の活用の有効性と課題について検討した。
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