本研究の目的は、ベルリンにおける就学前施設(幼児教育施設)の取り組みを道徳教育の視点から考察し、その特徴について検討することであり、研究内容に即して言うと、世界的にも注目されている「ベルリン陶冶プログラム」(Berliner Bildungsprogramm)と、そのプログラムの導入による就学前施設の改革の状況を道徳教育の視点から解明することにあった。 この目的を達成するために、研究の方法は、「ベルリン陶冶プログラム」の内容それ自体を詳細に分析するというのではなく、プログラムの内容の重要な理論上の特徴を確認しながら、プログラムに基づいて実践されているひとつの就学前施設に着目して、その施設における実践の特徴とともに、実際的な道徳教育の方法の特徴を明らかにするというものであった。さらにより具体的・実際的に言えば、その施設における実践の観察と、施設の教員・保育者へのインタビュー調査を行うとともに、施設の教員・保育者全員に配布されている手引書の内容を詳細に分析検討した。その結果、「人格の発達」の名の下に、一定の秩序に裏づけられた子どもの遊びや活動全体の中に、潜在的で間接的な道徳教育の実態を明確に見出した。 したがって、本研究は、幼児期を「道徳性の芽生え」として捉え、道徳教育や人格形成にあまり重きを置いてこなかった、つまりどちらかと言うと児童期や青年期の道徳教育に力を入れることがあっても、幼児期の道徳教育を軽視してきた我が国の教育界に対して警鐘を鳴らすとともに、幼児期の道徳教育や人格形成を重視した、より望ましい具体的な実践のあるべき姿を提示した。 なお、公表については、研究成果の一部として、日本道徳教育学会において発表するとともに、その内容をさらに大幅に加筆修正したかたちで、筑波大学において刊行されている論文集に研究論文として掲載した。
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