研究課題/領域番号 |
25381071
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中田 康彦 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80304195)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 教育委員会 / 首長主導 / 民主主義 |
研究概要 |
教育改革の過程分析としては、中央―地方の政府間関係をみるものと、国・地方の各レベルにおける政治過程をみるもの、国・地方の各レベルにおける組織内力学をみるものとがある。首長主導の教育改革は、地方レベルにおける政治過程に注目するものである。 平成25年度はフロリダ州を調査対象とした。フロリダ州の事例は行政組織の再編を伴うものではなく、制度改革もいよいよ導入しようという段階ではあるが、首長主導の改革における政策実施の前過程について実態を確認することができた。 国内の事例については、国・地方それぞれのレベルで文献資料をもとに検討した。そして、日常の回復をめざす被災地における教育改革と、日常の変革をつくりだそうとする教育改革とのそれぞれにおける意思決定と主導権のあり方についての類型化を行った(編著書『3.11と教育改革(講座 教育実践と教育学の再生 5)』)。 教育委員会制度改革に現れている改革の構図は、専門技術性と住民代表性の相克という図式である。これは教育行政・学校経営の閉鎖性・形骸化といった教育官僚制に対する批判を背後に、チェックアンドバランスのあり方の見直しを迫るものである。しかし、この図式は、①住民代表性の問い方・現れ方の多様性を捨象している、②専門技術性と住民代表性を両立不能な二律背反のものと位置づけている点で、過剰に単純化していることを明らかにした。そして大阪の改革を事例に、政治主導の改革推進論と改革反対論の議論の整理を行い、改革の当事者を誰とみなすのかについての見解の相違が議論の構図の根本にあることを明らかにした(「教育改革は誰のものか―改革論議の構図から浮かび上がる課題」)。そして、多忙化が進む中で、こうした制度改革を受容する意識の土壌が学校で形成されつつあることを指摘した(「教員の意識に対する教育政策の影響」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
首長主導の代表例であったニューヨーク市では、12年間続いていた市政の政権交代が生じ、政策路線と行政組織の見直しが始まろうとしている。状況の流動性が極めて高くなっている。そこでニューヨーク市の調査を急がないこととし、平成25年度におけるアメリカでの調査対象地を、ニューヨーク市からフロリダ州に変更した。このことによって、政治的リーダーシップの交代が教育改革の政治的安定性に及ぼす影響を回避し、政治的リーダーシップによって推進された教育改革の事例をみることができた。またそれに伴い、政策アクターへの聞き取り調査もフロリダ州の教員団体を対象とし、アメリカの研究者との意見交換もコロラド大学からフロリダ州立大学に変更し、フロリダ州の教育改革を背景として聞き取りを行った。したがって本来の調査研究の趣旨が実施されたものと考えている。 国内の事例については具体的な実態調査には入っていない。しかし国レベルの改革、地方レベルの改革のそれぞれについて改革論議の構図を整理し、政治的リーダーシップと教育改革の関係を明らかにすることができた。このことによって、個別の改革事例を検討するだけでなく、教育改革全般における「誰が改革の担い手であるべきなのか」という問いに対する基本的な理論枠組みを作ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
一年目となる平成25年度は、調査対象地を変更した。しかし首長主導による改革という政策過程が、教育改革の内容と運用にどのような影響を及ぼしうるのか、アメリカにおける事例を調査するという枠組みは維持されており、大きな変更は生じていない。 平成26年度もアメリカにおける聞き取り調査を引き続き行う。 国内に関しては、首長主導による教育改革の具体的事例に関する実態調査を、聞き取り調査というかたちで平成26年度以降に実施していく。同時に、地方教育行政組織の組織及び運営に関する法律の改正をめぐる議論を分析することで、首長主導の教育改革について、どの論点がどのようなかたちで自覚され、あるいは自覚されていなかったかを検証する作業を行う。 こうした文献調査の作業は、アメリカに関しても並行して進めていく。
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