研究課題/領域番号 |
25381082
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
柳林 信彦 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (30516109)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ教育改革政策 / 分権的教育改革 / 地方教育行政機構改革 / 国際情報交換 / システミック・リフォーム / 教育委員会 / 教育行政学 |
研究概要 |
平成25年度は、まず、①分権的教育改革の新しい展開における改革戦略分析のための理論的枠組の精緻化を行った。「『効果的な学区』論に関する先行研究の検討」と「システミック・リフォーム・コンセプトの理論研究の分析を中心としつつ、特に、フラン(Fullan,M)の研究を収集し考察を加えた。考察からは、1980年代後半から始まる分権的教育改革においては、州集権化と学校分権化の中で存在を疑問視されていた学区教育委員会に対して、2000年代初頭から改革促進のための学校支援機関として新たな注目が集まっており、その役割変容も踏まえた分析枠組みの精緻化が必要であることが解明された。現在は、それらの知見に基づき、分権的な教育改革の改革戦略の分析視点の精緻化を進めているところである。 次に、②ケンタッキー州の教育改革の事例分析を、特に、教育行政機構改革、教員改革を中心に行った。課題の解決に当たっては、改革実施過程における州や学区の役割の実態に関する一次資料の収集のため、州内で大きな人口を抱えるレキシントンを中心にケンタッキー州の調査を行い、教育改革政策に関する州法制、教育改革政策評価に関する情報と資料の収集と検討を行った。現在は、ケンタッキー州教育改革法の教員制度改革施策と教育行政機構改革施策の特徴をシステミック・リフォーム・コンセプトという視点から解明し論文としてまとめているところである。 最後に、得られた研究成果の社会への発信として、本年度の研究から得られた分権改革期の教育行政機関による学校支援の在り方に関する知見を活用して、高知県内の近隣市の教育振興基本計画の策定における助言を行った。また、同じく、分権改革期の学校に求められる組織的力量の形成に関する知見を活用して高知市内中学校におけるコミュニティスクール推進委員としての助言を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては、「効果的な学区」論の精緻な検討を中心とした分権的教育改革の新しい展開における改革戦略分析のための理論的枠組の構築とケンタッキー州の教育改革の事例分析を計画していた。 前者に関しては、フラン(Fullan,M)を中心とした「効果的な学区」論に関わる主要文献の収集とその意義の解明がすすんでおり、分権的教育改革期における学区教育委員会の意義や役割変容について一定の知見の蓄積ができた。また、そうした知見をもとに、これまでに構築してきた分権的教育改革政策分析の理論的な枠組みの精緻化も進められている。 後者に関しても、特に、教育行政機構改革、教員改革、改革戦略の在り方に関する資料収集を目的としたケンタッキー州の現地調査を実施し、一次資料の収集は順調に行えている。また、資料の検討も当初の計画にほぼ沿うようにすすんでおり、教員制度改革施策と教育行政機構改革施策に関しては一定の知見を得る事が出来た。現在は、システミックリフォームの一部としての両改革施策の特徴をまとめているところであり、研究論文として公表する予定である。 また、本研究は、最終的には、分権的教育改革の中で、学力向上や学力格差の解消に取り組まなくてはならない状況にある日本の教育委員会が、効果的な教育委員会となるための組織機構改革の方途について解明することにおかれているが、近隣市町村の教育振興基本計画の策定に関わって、あるいは、コミュニティスクール推進委員として、日本の分権的教育改革に関わる教育行政の実態をとらえ直す中で、アメリカの分権的教育改革の検討から得られる知見の意義がどういった点にあるか、という点についても考察を進めることが出来た。 以上のことから、現在までの達成度は、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に関しては、引き続き分権的教育改革の新しい展開における改革戦略分析のための理論的枠組の精緻化を進める。特に、「効果的な学区」論は研究蓄積が始められたところであり、国内ではほとんど報告されていないことから、最新の研究動向を把握する必要があり、引き続き関連文献の入手に当たると共に、システミック・フリォームという改革コンセプト全体の中に学区教育委員会の役割を落とし込むことを行う。 次に、ケンタッキー州の教育改革の事例分析については、平成25年度調査で得られた知見の精査に基づきながら、二次調査を実施する。特に、KERAの成立に関して地域住民や親の立場から大きな影響を与えたプリチャード委員会(Prichard Committee)を訪問し、地域住民・親からみた政策実施と政策評価についての資料を収集すると共に、ケンタッキー州教育省、学区教育委員会への継続的・補足的な調査を行う予定である。 また、これまでの研究において解明しえている、KERAの導入背景や、アカウンタビリティ・システム、カリキュラム改革に関する知見を再度精査するとともに、平成25年度の活動で明らかとなった知見(特に、システミック・リフォーム・コンセプトの理論的枠組みやKERAの教育行政機構改革や教員制度改革)を全体として分析することを通して、「分権改革の新たな展開において形成されている改革戦略の構造的特質」を解明するための基礎的な考察に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の計画に基づく経費執行について10万円程度の未執行額があるが、これは、文献及び資料の収集が当初の計画よりも若干遅れたことによる。ケンタッキー州の教育改革関係の文献に関して、文献の検索や入手手配などは進んでいるが、海外文献ということもあり、入手に若干の時間がかかる結果となった。ただし、このことは、研究計画の推進には大きな支障を与えていない。 当該資料等の収集は、全体の研究計画の推進には必要であるため、未執行額は26年度中に文献資料の収集に使用する予定である。また、それを除いて、次年度の研究は、当初の計画通り進める予定である。
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