研究課題/領域番号 |
25381084
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山城 千秋 熊本大学, 教育学部, 准教授 (10346744)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 民俗芸能 / 青年教育 / 沖縄学 / 先住民族 |
研究実績の概要 |
民俗文化は、先天的に獲得されるものではなく、後天的な学習によって獲得されるものである。また、民俗芸能は、文字化・マニュアル化されるものではなく、他者との身体と言語を介した相互学習によって伝承される特質をもち、学校教育とは異なる社会教育独自の学習アプローチをもつ。ことばと身体を通して伝承される民俗文化は、異世代と異文化の交渉・交流によって個性と独自性をもつと考えられる。 本年度の調査研究では、異文化におけるマイノリティ文化の持続可能性として、ブラジルおよびボリビア多民族国の沖縄コミュニティの文化伝承過程について参与観察を行った。ブラジル生まれの二・三世が沖縄人としての意識と沖縄文化を内面化するためには、それらを体感できる共同体と継承する先行世代が必要不可欠となる。ブラジルの沖縄コミュニティでは、支部会館を拠点に、青年会や婦人会、古典音楽、琉球舞踊などの文化活動や年中行事、祭りを通して、二・三世への伝承を可能としてきた。琉球芸能の定着と普及については、琉球古典音楽協会、琉球古典音楽保存会の関係者、箏曲、琉球民謡保存会、琉球舞踊協会と各流派への聞き取りを行った。 古典音楽の継承と指導者の育成は、本家沖縄の琉球古典音楽集団との強い結びつきの上に成立しており、母県沖縄との共同関係が、芸能の基本を忠実に再現する原動力となっている。同様に、青年集団による創作芸能の定着過程では、琉球國祭り太鼓とレキオス芸能同好会においても、本家沖縄とのつながりが本集団のアイデンティティとなっており、場所を越えて同じものを再現することで、強い伝承が生まれていることが分かった。ボリビアのオキナワ村における民俗芸能では、学校教育を通して子どもたちへ民族教育が行われていることが、沖縄人意識の形成に大きな役割を果たしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外における沖縄芸能の定着と普及に関しては、ブラジルのカンポグランデ移民100周年およびボリビアのオキナワ移住地60周年式典を通して、芸能の発展的展開を観察することができた。また、カンポグランデでは、沖縄系ではないブラジル人の学習者が現れており、継承者の多様化という新たな視点を発見できた。沖縄県内においては、昨年度に引き続き、字青年会へのアンケート調査を実施し、沖縄県青年団協議会の協力を得て、現段階で約100青年会から回答を得た。県外の青年集団として、崇城大学沖縄県人会によるエイサーの聞き取りを行い、大学生による沖縄文化継承の実態について、今後の活動への参与観察を通して、県内の青年会と比較検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、一つに沖縄県内の字青年会のアンケート調査に尽力することが第一の課題である。2004年段階で調査をした際、459青年会を確認している。現在どのくらいの青年会が活動しているのか、戦後70年を節目に全体像を明らかにしたい。さらに、これまでに収集した資料・書籍を分析し、沖縄文化の定着過程と変遷について分析し、今後考えられる組織の衰退と解散の課題、そして世代間循環と軽傷の可能性について考察を行う。沖縄文化は、これまで沖縄人、沖縄県系人によって継承されてきたが、県外・海外においては沖縄文化を理解する非沖縄系も増えつつある。沖縄文化は誰が継承するのか、アイデンティティの問題と関連して、さらなる分析を行う。 地域社会と民俗芸能は、不可分の関係にあり、地域組織や祭祀行事を通して伝承を可能としてきた。しかし、今日では民俗芸能そのものを目的とした集団が生まれてきており、地域社会との関連が問われるようになっている。創作芸能も視野に入れながら、一方で「世界エイサー大会」のように、県内の枠組みを越えて、県外・海外からの創作芸能集団が出演できる祭りの意義についても、批判的吟味を行う。 最終年度は、本研究テーマの結論と国際学会での発表を通して、総括としたい。
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