最終年度は、主として、ロンドン・カウンティ・カウンシルの成人教育体系の一部をなしたデフ・インスティテュートの構想と展開を明らかにするとともに、東京市の社会教育事業の重点領域の一つであった市民体育の動向を考察した。 まず、ロンドン学務委員会の夜間教育におけるろう学校は、対象の拡大を伴うもので、成人教育におけるろう教育の萌芽であったこと。1914年、専門部会でデフ・インスティテュートの構想が練られ、経済的支援とカリキュラムの開発が議論されたこと。そして、ろう者に一般教育や職業教育等を行う専門的な教育機関であるヒュー・ミドルトン校と、年齢や障害の程度等が多様な中途失聴者を対象に、実用教育や社会的交流を提供する複数のデフ・クラスとして、この構想が実現したこと等を解明した。 他方、東京市では、欧米の大都市体育の視察・研究に基づき、体育の「民衆化」と「生活化」の論理から、民衆体育思想の普及や、民衆体育の実践的支援に関わる諸事業を開発したこと。この中で、長期にわたり、最も重視していた事業の一つが、夜間体育実行会であったこと。学校開放の視点を織り込み、整備が進みつつあった市立小学校をその会場としたこと等を明らかにした。 ロンドン・カウンティ・カウンシルは、専用設備の整ったろう教育の先進校等、東京市は、新設の復興小学校等を会場に充てた。これらの事例を含め、研究期間全体を通じて、公立学校の効果的な地域開放によって、大都市で拠点を確保し、成人教育ないし社会教育活動を開拓していたこと等がわかった。
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