本研究の目的は,自然災害に起因する学校事故に関して,教育委員会関係者,学校管理職を対象とする調査を通じて,犠牲となった児童・生徒に対する法的責任について,その現状と課題を明らかにすること,並びに,関係法令,裁判例の分析を通じて,損害賠償責任の在り方を整理し,事後的救済システムに関する制度設計の方向性を議論する手掛かりを得ることにある。 研究最終年度にあたる本年度は,これまでに蓄積された学校関連の震災訴訟について,主としてクライシス・マネジメントの観点から分析を試み,大規模自然災害の発生に際して,学校設置者,学校,教職員に求められる義務についてその詳細を明らかにする作業を進めた。素材とした裁判例は,石巻市私立日和幼稚園スクールバス津波被害訴訟,東松島市立野蒜小学校津波被害訴訟,石巻市立大川小学校津波被害訴訟,そして参考判例として用いた山元町常磐山元自動車学校津波被害訴訟を加えた4つである。 分析の結果明らかとなったことは,危機管理マニュアルの作成とその周知・徹底の重要性と,災害に関する情報収集とその分析の重要性という二点である。後者については,収集した情報を正確に分析し,その後の対応を決めていく必要があるという点が特に指摘できる。しかし,そこに揺らぎが生じ,情報収集が十分とは言えない状況の下,最終的な判断が行われ,被害を拡大したと考えられるケースが存在していることに留意する必要がある。
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