研究最終年度においては、専門学校教員が専門学校において養成する「能力」をいかにとらえているのかについて、質的調査を中心に実態を調査した。前年度までの調査ならびに、理論的検討もふまえて主に明らかになったのは、以下の2点である。第一が、専門学校教員が有する「能力」観に専門学校教育が強く規定されていることである。教育内容編成の自由度が他教育機関に比して高い専門学校において、また、卒業後のキャリア形成を強く意識する専門学校においては、教員が意識する「能力」観が専門学校教育に強く影響を与えている。そのことが教員調査ならびに、各学校の教育内容の照らし合わせにより明らかになった。第二に、「能力」観の学校・学科ごとの違いである。専門学校の多様性に対応して、専門学校教員が抱く「能力」観も学校・学科によって非常に多様であった。この点が確認できたことも研究の成果の一つである。こうした成果とともに、研究課題もまた浮かび上がってきた。とくに、専門学校教員について検討すべき要素が多数存在すること、そのなかでもとくに専門学校教員としての職業的アイデンティティがその教育実践等を強く規定することが明らかになってきた。一般の学校教員とは異なり、専門学校教員の制度的規定は緩やかであり、教員の養成制度も確立していない。そのため、専門学校教員の職業的アイデンティティは非常に多様であり、それぞれ多種多様な役割認識、専門性認識のもとで専門学校教育は編成・実施されている。今後、専門学校教育研究を進めるにあたっては、この専門学校教員の職業的アイデンティティについて明らかにする必要がある。
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