本研究は、イギリスの中等学校における学校選択制度を分析することにより、公立学校統治の原理モデルとしての「選択と競争モデル」の可能性を探究することを目的とするものである。本年度は、昨年度3月に実施した中等学校長調査データを用いて以下の分析を行った。 「選択と競争モデル」に上記のデータおよびGCSEの成績、Ofsted(教育水準局)の学校査察報告書の評価結果データを利用して「競争」との関係を検討した。具体的には、Ⅰ. 学校単位でのGCSEの成績の伸び、Ⅱ. Ofstedの学校査察報告書の評価結果指標である、①総合的評価、②リーダーシップとマネジメント、③生徒の学業達成、④生徒の行動と安全,⑤教育力、さらに、Ⅲ. 質問紙による調査項目であった、①保護者の教育への応答性、②保護者の意見表明、の諸点に関して「競争」との関係・影響力を分析した。その結果、Ⅲの2点、すなわち保護者との関係性に関しては競争の程度が激しくなるほど、応答性や保護者の意見表明に関して肯定的な見解が増える傾向が見られた。その他の点については、特に競争との関係性として、統計的にはGCSEの成績に関して、年度と競争の指標によっては負の影響が認められた場合があった以外は、確認できなかった。 保護者との「競争」との正の関係性が確認できたことは、従来の保護者と教職員との力関係の組み替えの可能性が「選択と競争モデル」にあることを示唆している。したがって、上記の指標で見た場合、競争によって負の影響が認められないらば、「選択と競争モデル」の方が、「信頼モデル」「管理統制モデル」「発言モデル」よりも優れたモデルになりうると考えられる。この点は保護者との関係性の質的側面に踏み込んで分析する必要があり、「競争」の効果の分析枠組みを洗練させることとともに、今後の課題である。
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