本研究は、2010年代の日米の歴史教科書の内容分析を行い、そこにナショナリズムがいかに表現され、共生概念とはどのように関連付けられているのか、あるいは差異化されているのかを探索するものである。また併せて、多文化教育論・多文化社会論の動向の把握と分析、並びにナショナリズムと共生に関する社会意識の探索を行う。 研究の最終年度となる2015年度は、これまでの調査と分析で得た知見をまとめ上げることに主眼をおき、以下の3つの課題を設定して研究活動に取り組んだ。①日本の中学・高校歴史教科書の内容分析の展開をはかる。②共生社会意識調査の結果の解析を進める。③研究課題全体に関する総合的な考察を行う。 ①については、前年度までの作業で確定した歴史教科書内容のデータを用いて、2008-09年の学習指導要領改訂を受けて刷新された歴史教科書の記述を旧版のそれと比較分析し、歴史叙述の更新がもたらす意味を検討した。その成果として、『共生の社会学』所収の論文「歴史教育内容の現状と、伝統の学び方のこれから」を発表した。 ②については、前年度までに行った社会意識調査の結果の分析を進め、共生社会意識とナショナリズムとの関連性を検討した。その成果として、『共生の社会学』所収の共著論文「「共生」に関わる社会意識の現状と構造」を発表した。 ③については、「共生が要請される時代のナショナリズム」について総括的考察を行った。3年間に亘る本研究活動全体の成果は、2016年4月刊行の共編著『共生の社会学――ナショナリズム、ケア、世代、社会意識』の全体的な論旨に反映されている。
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