本研究の目的は、私立大学のガバナンスについて、国内の事例研究と国際比較研究を通じて実態を明らかにし、今後の望ましい改革の方向性について検討することである。研究期間を通じて実施したのは、以下の点である。第一は、国内の私立大学の事例研究の実施である。学部の新設改組事例、教育改革で補助金等を獲得している事例、大きな経営判断が必要となる合併や連携の事例などに焦点をあてて、関係者に対するインタビュー調査を行った。理事会と大学・学長の関係などにとくに注目して行った。第二は、本研究が大学単位ガバナンスと同時に着目した、大学集合ガバナンス(政府との関係、大学団体等)について、文部科学省や大学団体、大学経営者と意見交換を行った。18歳人口の急減期に、大学行政や団体の役割が果たすべき役割にを検討した。第三は、既存のアンケート調査の再分析である。教員調査、上級管理職調査、教育改革実績調査の再分析などを通じて、学長のリーダーシップ、学長選考方法、教授会の役割の違いなどの多面的な分析を行った。政策的には、ガバナンス改革が求められているが、日本の私立大学のガバナンスの多様な実態を鑑みると、各大学で望ましいガバナンス改革の方向性や時期が異なっていることが明らかになった。第四は、海外状況の分析である。韓国、米国、英国、中国などについて文献資料調査や訪日中の外国人研究者との意見交換を通じて、考察を深めた。中心的に検討を行ったのは韓国である。私学への依存度が高く、18歳人口の急減期という共有の環境が参考になるが、韓国の場合は、経営不良大学の強制退出などの直接的・強権的な政策も実施されているが、大学進学者の減少が予想以上に進むなど、政策効果の限界もあることなどを明らかにした。第五は、当初の研究計画になかった点であるが、他の非営利組織のガバナンスとの比較を行い、公益性の担保で課題があることを検討した。
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