本研究の目的は,図書資料の電子化の現状と,それに伴う経費削減が迫られる大学図書館における格差の実態およびその変動を実証的に明らかにすることである。これまで本研究では,日本図書館協会が発行している『日本の図書館―統計と名簿』に掲載されているデータをもとに,国公立大学の図書館資料費(図書費・雑誌費・EJ費)について,大学間・大学間格差を分析してきた。他方で,大学図書館における「教育」の機能は重要さを増しており,その成否の鍵を握るのが図書館職員であることから,平成28年度~29年度にかけて,国立大学の図書館職員について,大学間・大学階層間の格差の実態を分析してきた。その結果,とりわけ司書数における雇用形態別の大学階層間格差は拡大していることが明らかとなった。大規模な総合型大学では,小規模な単科型大学に比べて,正規採用で専門性の高い司書が,「教育」活動に従事する傾向が強まっているといえる。この研究成果を『大学図書館研究』(108)に投稿して掲載された。また,こうした結果の具体を明らかにすべく,中部地方と東北地方に立地する国公立大学を対象とした訪問調査も実施した。 さらに本年度は,さらなる研究の進展を期して,これまでの大学図書館研究で検討してきた分析枠組みを援用し,公共図書館における図書館資源について,地域間格差の実態を探索的に分析した。その結果,明らかになった知見は次の2点である。①町村では図書館の有無において格差が生じており,市区では貸出数において格差が生じている。②専任司書の不均等度について,奉仕人口の不均等度を基準にすると,市区よりも町村のほうが相対的に専任司書の格差が大きい。この研究成果を『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』64(1)に投稿して掲載された。
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