本研究では、中華人民共和国(以下、中国と記す)と米国、英国、オーストラリアの高等教育における国際教育連携に関わる取り組みを比較検証し、日本の国際教育政策を考案する上での示唆を得ることを目的とした。本研究では、中国を分析の軸に据えつつも、国際教育連携における中国の主要なパートナーである米英豪の政府及び高等教育機関の視点に焦点を当て、各国政府及び主要高等教育機関が、国際教育連携においてどのような成果を得ることを目的としているのか、また国際教育連携の推進における課題は何かを明らかにするべく、各国の政策・施策、中国の主要大学と3か国の主要大学の連携によるトランスナショナル高等教育(内外協力による学校運営)に関する調査を実施した。主たる研究成果は以下の通りである。先行研究では、中国との国際教育連携を展開する主要国の高等教育機関の動因として、経済的動因(トランスナショナル高等教育プログラムによる授業料収入)、雇用の創出及び中国の高等教育市場でのプレゼンスの向上等が挙げられていた。しかし、一連の調査を通して、上記の点に限らず、特に理工系の分野では、中国国内に中国の大学との連携でトランスナショナル高等教育機関を設置することにより研究拠点を確立し、トップレベルの中国人学生や中国の大学教員との国際共同研究を拡大することを、主たる目的として挙げている機関が確認できた。中国の大学の研究水準の向上に伴い、中国の大学をより対等なパートナーとして位置づけ、トランスナショナル高等教育機関を国際共同研究の拠点として発展させていく構想がみられた。一方、人文・社会科学系の分野においては、異なる政治・社会システム下の中国で展開されるトランスナショナル高等教育プログラムに対して、米英豪の本国の大学での教育プログラムとの等価性等に関する疑義が取りざたされるなど、更なる検証が必要な点も確認された。
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