研究課題/領域番号 |
25381138
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
苑 復傑 放送大学, 教養学部, 教授 (80249929)
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研究分担者 |
劉 ウェン 日本工業大学, 工学部, 講師 (40438817) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大学の共同運営 / 「111計画」 / 国際連合実験室 / 留学生 / 中国大学の国際合作 / 大学の国際交流 / 大学の国際化 |
研究実績の概要 |
高等教育の国際化は、世界各国において急速に進展しているとともに、政策の重要な課題となっている。この中で、中国は高等教育の国際化を、外国大学との協力(「国際合作」)によって積極的に推進する政策をとってきた。 具体的には中国高等教育の「国際合作」は①「中国と外国による大学・教育プログラムの共同運営(2003)」②「大学の学科創生のための人材誘致計画(2006)、略称「111計画」の実施、③「国際合作連合実験室(2014)」の建設、④留学生の送り出しと受け入れの規模拡大などの形態がとられた。 「111計画」は2006年から教育部と国家外国専門家局が連合して実施してきたプログラムである。目的は、世界クラス(一流)の大学建設を推進し、世界トップ100位の大学と研究機関から、1000名の優秀な外国籍・外国永住権をもつ人材を誘致し、国内で100個の世界レベルの「学科創新人材引智基地」を創立する。「国際合作連合実験室計画」は2014年に教育部によって出された新しい政策で、現有の国家重点実験室(153個所)、または教育部重点実験室(151個所)が土台となり、競争入選する。目的は国外の高水準の大学と研究機関と連携し、教育・科学研究の協力プラットフォームを作る。 これらの政策によって学生の国際移動においては、2014年に中国から46万人の留学生を海外に送り出しており、36万人を世界から受け入れており、共同運営プログラムに就学している学生数は55万になる。 これらの政策が実際にどのように運営され、どのような効果を生んでいるかを研究することは、中国の教育研究の国際化を理解する上で、重要な意味をもつとともに、日本の高等教育の国際化、或いは高等教育における日中協力の推進に大きな意味をもっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の政府の政策とその進行状況を公式統計、政策文書、政府ウェブサイトによって確認するとともに、中国の主要数大学におけるインタビュー調査によって、その各大学での実態を明らかにすることに努めた。 まず公式統計からは、外国と共同運営の教育機関とプログラムについて、教育部のホームページに「中国と外国の共同運営による学士課程専攻整理審査総表」、「中国と外国の共同運営プログラム登記表一覧」、「中国と外国の共同運営プログラムの新規登録リスト」等が公表され、各プログラムは、その名称、住所、合弁者双方の代表者名、修学年限、学歴学位種類、募集人数、入学試験の方法、交換留学の有無と期間、運営許可期限、認可機関、認可日付が明記されていることが確認された。ただしこうした制度上の整理は、プログラムの規範性、そして、国内大学のカリキュラムとの整合性を図るものの、教員の確保、外国語教材の導入、学生の語学レベル、適応能力、学習効果など、様々な問題が潜んでいる。またバイリンガル授業は学生にとって、必ず好評とは言えない調査結果がある。中国でのこの実践は日本の大学における英語による教育プログラムの拡大にも示唆を与える。 「111計画」は、 高水準の人材誘致の数字目標は達成しているものの、期待したような世界レベルの人材誘致に成功しているとは言えない。人選がいない場合、国内の教員で補填したりすることもある。また高給で誘致している外国籍・外国の永住権をもつ研究者は、華僑が主であり、1か月、または3カ月間、中国で研究する条件を満たしているものの、狙っている教育・研究成果は即時にあげられると限らない。「国際合作連合実験室計画」は実施の初期段階にあり、その展開の実態は今後のインタビュー調査に期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの二年間の研究によって中国高等教育の「国際合作」は上記の①「中国と外国による大学・教育プログラムの共同運営」②「大学の学科創生のための人材誘致計画(111計画)」の実施、③「国際合作連合実験室」建設、④留学生の送り出しと受け入れの四つの側面とも、急速に拡大・進展してきていることが明らかになった。産業・経済の構造変化による高度な人材への要求、大学の教育研究レベルの向上への社会の要求、所得の拡大による家計の教育への要求などは、政府の国際合作と交流への積極的政策支援が生じさせている。 しかし他方で、様々な問題点も明らかになった。政府財政からの潤沢な研究教育費などの環境整備によって、教員は研究成果が要求される中、現場で海外から優秀な人材の誘致に関しては、必ずしもインセンティブがあるとは限らない。自前の人材で相互に補填するケースが生じている。また優秀な学生を海外に出さず、自前に確保する状況も生じている。そして、就職に関しては、必ず海外から帰ってきた帰国留学生に有利になるとは限らない。教育研究の国際化に伴って、選択肢が多くなる中で、教員と学生がどのような形態で、どの段階で、国際協力・流動・留学するかは、今後の国際合作の質に影響を与えると思われる。 最終年度においては、こうした問題点に焦点をしぼって、国際合作の政策やマクロなデータを引き続き収集したうえで、共同運営大学・教育プログラム、「111計画」、「国際合作連合実験室」の実態について、教育部留学生服務センター、国家留学基金管理委員会、教育発展研究センターなどの機関と大学の教職員と学生に引き続きインタビューを行う。各機関の国際合作の実態と成果、課題を明らかにする。 その研究成果を踏まえ、中国と日本の大学の教育・研究の協力・交流と協同プログラムの形態と実態、効果を明確にし、今後、両国の大学の協力の方法と条件、方向を明らかにする。
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