研究課題/領域番号 |
25381141
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
沖 清豪 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70267433)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 学生参加 / 学生経験調査 / 学生ユニオン / 英国 / 異議申し立て / 請願 |
研究実績の概要 |
本年度は主に英国内の学生の「声」を大学および中央行政にどのように反映しているのかを具体的に確認し、その意義と課題について明らかにすることを目指し、以下の三点について調査研究を行った。 第一に、各大学における学生からの「声」を受け止めるプロセスとしての請願(appeal)と異議申し立て(complaint)の制度について調査し、入学時の手続き・評価、成績評価、その他学術的な問題に関する異議申し立ての制度が多くの大学で規則・文書化されており、大学と学生(および受験者)との間の契約として機能していることを確認した。なおこの規則については国内での知見共有を目指して、拙ウェブサイトで代表的な大学の各種規則・学生対象の文書へのリンク集暫定版を公開している。 第二に、学生ユニオンの動向を中央行政に関する関与の度合い(政策面への発言の場として)、およびユニオンが協力した学生経験調査報告書の分析を通じて学生のニーズと課題を検討した。前者については中央行政レベルの高等教育関連組織にボードメンバーとして全英学生ユニオンの代表者が参加していることを明らかにし、近年の学生ユニオンの影響力が示された。一方学生経験調査による新たな知見として、学生のニーズが特に初年次段階の教育に関して問われていること、したがって学生の視点からは伝統的教育システムのさらなる変更が想定されることを確認した。 第三に、2013/14年度、14/15年度の全英学生調査(National Student Survey)結果を再分析し、良い評価の大学が安定してきている一方で、教育面でのフィードバックに対する評価の低さが依然として課題となっていることを明らかにした。 なお国内の状況については、データに基づく学生支援の多様化状況を踏まえて、その一環としてのFD・SDの在り方について探究し、次年度の課題を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は日英比較を目指している研究である。 英国内の状況については、過去二年間の成果で少なくとも基礎的なデータ・文献は収集することができており、個別大学における異議申し立て・請願の規則の内容および大学間でのシステムの違いを分析した結果は、今後日本で学生と大学の関係を再定義するにあたっての参考資料となりうる。また収集した資料を詳しく分析することで、なぜ中央行政レベルにまで学生の「声」が反映されるシステムが構築されているのかを明らかにし、それを日本の現状との比較でどのように評価するかを理論的に検討することができる。以上が2014年度の成果といえる。 一方で日本国内の包括的なアンケート調査については他に実施していた調査の動向を踏まえて、想定される回収率の低さをどのようにフォローし、実際的なデータを収集する方法について、ウェブ調査の導入を想定しつつ検討するにとどまり、実際に研修等を通じて情報を収集した三大学の具体的な状況把握に留まり、仮説的な検討に留まっている。次年度の課題は日本国内の動向をどのように把握し整理するかとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
三年計画の最終年度として、本研究のまとめを行うことになる。 第一に、英国内の状況については、これまで収集してきた規約類や学生ユニオンのデータ・文献を再分析して、英国でここまで学生の声が参考にされてきた歴史的背景と現状の課題について論文にまとめる。 第二に、日本国内の状況については、独立行政法人日本学生支援機構の学生支援に関する実態調査の結果も参照しつつ、本研究独自の視点となる大学運営や政策形成における学生の「声」の活かし方について、いくつかの大学の先導的事例(特に特別なニーズを有する学生に対する支援)を整理しつつ、全国的な制度設置の状況についてアンケート調査を対象大学の負担が低い時期に実施し、その成果をまとめ、公表する。 最終的に研究全体のとりまとめとして、英国内の状況と日本の現状を比較考察し、その成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内大学対象のアンケート調査を予定していたが、当初のアンケート設計内容から見て回収率の低さが危惧されたため、アンケート内容の修正と回答方法の多様化としてウェブ調査を併用するための準備に手間がかかり、結果的に2015年度夏の実施となったため。なおイギリス調査についてはウェブ調査により必要なデータがほぼ収集できており、その結果をウェブ化して公表している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額はそのまま当初予定通りアンケート調査を実施するために必要となるアンケート印刷代、データ入力の人件費、アンケートの送付郵送料、およびウェブ回答用サイトの構築にあたって学生の協力を得る人件費として使用する。他の費用については当初予定通りの助成金使用で対応可能である。
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備考 |
英国大学における学生からの請願・異議申し立てに対する対応の原則を記した規則類のリンク集
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