研究課題/領域番号 |
25381146
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
加藤 潤 愛知大学, 文学部, 教授 (80194819)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イギリス学校教育 / Free School / school choice / Charter School / comprehensive school / 学校選択制 / 市場原理 / 階層化 |
研究実績の概要 |
平成26年度においては、8月初旬から9月初旬にかけて、約一か月余りのイギリス実態調査を実施した。そこでは、Free Schoolの事例として、Swanage Free School(デボン州)とRoute39 Free Schoolにおいて、その設立の経緯、親、地域との関係、生徒のカリキュラム内容、教師の意欲などについて、インタビュー調査を実施した。この新しい学校が地元でどのように受け入れられているのかを探るため、研究計画でも予定していたとおり、Route 39 Free Schoolと対立している伝統的中等学校(Comprehensive School)の比較調査を行った。対象とした公立中等学校は、Holsworthy Community Collegeである。同校の校長から聞き取り調査と資料提供を受け、地元では、必ずしもFree School が好意的に受け入れられていないことが明らかになった。さらに、フリースクール設立メンバーの親たちが、医師、弁護士などの専門職に偏っている実態も明らかになった。すなわち、ここで、選択の自由が階層化の装置として働いている可能性が高いことが事例的に明らかになったのである。 調査時点では、Route 39 Free School の校舎設立許可が地元の議会(County Council)で認可されるかどうかが議論になっていた。結果的に、調査後の議会では否決され、このフリースクールは今後、地元で新校舎を建設できなくなっていた。にもかかららず、政府はこの新しいタイプの学校に資金を投入している。ここに見られるのは、イギリスの教育政策において、政府の改革方針と地元住民の意識にかい離があり、学校選択制が教育の質を高めるというより、むしろ、地域分断を生んでいる可能性が高いことがわかった。以上のように、いくつかの新しい知見が得られた成果は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
26年度の研究遂行において、顕著な進捗がみられたのは、イギリスにおけるフリースクールにおけるインタビュー調査が、当初予定した3校に加え、現地で紹介をうけた、新たにフリースクール設立を計画している校長へのインタビューにまで発展し、より多くの事例が分析できたことである。加えて、調査拠点である、エクセター大学からは、デジタルデータになっている学会誌などを自由にダウンロードできる資格を与えられ、日本では入手困難な雑誌を含めて、多くの論文、記事が資料として入手できたことがあげられる。これらの調査校が一年後、どのような状況になっているのかをフォローアップ調査で27年度再調査できれば、イギリスにおける学校選択制をめぐる、親、政策担当者、学校関係者の意識と利害がかなり一般化された形で明らかになると考える。申請書段階で予定していた、我が国との比較分析を行うための基礎資料はほぼそろってくることになり、最終目標に向けての達成度は、予定より早くなっていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在の時点では、申請時の研究計画に変更はない。むしろ、今後はそれにしたがって、調査を加速化させていきたい。ただ、一つ課題としてあげられるのは、イギリスのフリースクール政策(学校選択制)が、現在、総選挙が予定されており(平成27年5月)、その結果いかんによっては、保守党政権が進めていた、新しいタイプの学校を既存校地域に導入する政策がドラスティックに変化する可能性もはらんでいる。過去を振り返れば、60年代半ば、労働党政権が誕生した折、一夜にして3分岐システムが廃止され、コンプリヘンシブスクールが導入された例もある。もし、政権交代が現実のものになれば、フリースクール導入にはブレーキがかかることも予想される。 本研究では、それにはかかわらず、地域住民と学校にとって、新しいタイプの学校はどのようなメリットがあり、どのようなデメリットがあるのかを分析することに徹底したい。さらに、このイギリスの事例を我が国の学校選択制に関する政策インプリケーションに反映させるため、比較検討を最終年の課題としてあげておきたい。ここで、ひとつの政策提言ができれば、イギリスという先行事例が我が国の文教政策に何らかの示唆を与えてくれることが実証されるだろう。 H27年度度の実態調査では、フリースクール以外の一般学校の教師にも聞き取りを行いたいと考えているが、滞在期間がどれくらいとれるのかが、予算との兼ね合いで不確定な面もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度の調査では、調査受け入れ期間であるエクセター大学が学生寮を提供してくれたことから、宿泊費が大幅に削減できた。加えて、現地での交通費も当初予定していた自動車からすべて公共交通機関で済ませたことも、現地支出を低く抑えることができた。また、国内の研究打ち合わせ、研究会出席などは、個人研究費と研究費テーマが重なるものについては、大学個人研究費で支出したことも削減につながった。また、予定していた文献購入はH27年度に延期したものがあり、結果的に、これらをH27年度へと繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、イギリス調査の最終年であり、フォローアップ調査ができる最後であることから、H26年度と同じもしくは少し長い滞在期間を取る予定である。繰り越した予算はそのための費用としてあてる。また、為替動向からみると、航空券代、現地支出は若干多くなる予定であり、それにも充てる。また、H26年度大幅に削減できた宿泊費は、H27年度も学生寮の使用を願い出る予定であるが、もし、それが不可能な場合には、一般宿泊となり、費用は大幅に上昇し、それへの対応を考えなくてはならないと考えている。H26年度は繰り越した、教育刷新委員会議事録、イギリス教育社会学会誌などは、残りを本年度の予算で購入する予定である。
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