研究課題/領域番号 |
25381151
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
多賀 太 関西大学, 文学部, 教授 (70284461)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 父親 / 家庭教育 / 階層 / 歴史社会学 / 私の履歴書 / 経済人 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、自叙伝の記述を第一次資料として、明治期から第二次世界大戦後までの各時期における日本の家庭教育の実態の詳細を、特に父親による関与の仕方の変化という観点から明らかにすることを目的とする。 前年度には、日本経済新聞社「私の履歴書 経済人」全38巻に収録された243名分の自叙伝の中から、同一出生年の著者による作品のうち最初に新聞に掲載されたものを抽出する方法で57名分を抽出して分析を行った。その際、出生年代が下るにつれて変化していた家庭教育のあり方には、出生年代の違いのみならず、執筆時の時代的風潮の影響を受けた執筆スタイルの変化が反映されている可能性が指摘された。 そこで今年度には、分析事例を増やすとともに、執筆時の時代的風潮が執筆スタイルにもたらすバイアスの程度を検証するために、同一出生年の著者の自叙伝のうち、掲載時期が最も遅い著者の自叙伝57名分を抽出して分析を行った。両標本の特性を比較したところ、前年度標本に比べて今年度標本では、執筆年が平均して約11年遅かった。 これをふまえて、前年度と同じ要領(前年度研究実績および今年度論文参照)で今年度標本を分析し、前年度の結果と比較したところ、全体で、父と母への言及回数に1割程度の増加が見られたが、それ以外の傾向は、前年度得られた知見とほぼ同じだった。すなわち、今回行った量的分析の結果を見る限り、10年程度の執筆年の違いでは、執筆時の時代的風潮が執筆スタイルに与える影響は大きなものではないことが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、予定していた程度の成果発表ができた。前年度の成果の大部分と今年度の成果の一部に基づいた研究発表を、日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学共催)「教育の歴史社会学」部会で行い、それをまとめた論文を『関西大学文学論集』(第64巻第3号)に執筆した。また、オーストリアのウィーンで開催されたシンポジウム、第87回日本社会学会大会でのシンポジウム、オーストラリアのシドニーで開催されたシンポジウムにおいても、本課題の成果の一部を報告した。 第2に、前年度の計画通り、掲載時期が最も遅い著者の自叙伝を抽出して初年度と同様の要領で分析することを通して、分析対象を拡大しただけでなく、同一出生コーホートに属する著者の間での、執筆時期の違いがもたらすバイアスの程度について検討することができた。今回の分析はこの検討の最初の試みに過ぎないが、自叙伝をはじめとするテキストを使用したライフコース/ライフヒストリー研究の方法論的考察として、重要な問題提起ができたと考えている。 他方で、本課題が特に焦点を当てている都市中間層の父母それぞれに対する当時の社会的文化的規制、かれらの所有する教育資源、かれらの学歴意識などを把握できる文献の渉猟については若干の遅れが見られ、分析結果の解釈に十分な程度までに作業が進まなかった。次年度には、この点についてより一層作業を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3年目となる次年度には、引き続き「私の履歴諸 経済人」を分析対象としながら、本課題が特に焦点を当てている都市中間層の家庭教育の特徴とその変遷を中心に検証を行う。今年度までの分析では、階層の区分を大まかにしかとらえていなかったが、次年度は、SSM職業分類などを用いて、より客観的な指標によって階層区分を行ったうえで、同じように教育に高い関心をもつ家庭でも、上層と中間層とで家庭教育の具体的なあり方に違いがあるのかないのか、あるとすればどのような違いなのか、またそれぞれの家庭教育のあり方が時代とともにどう変化しているのかを検討する。 また、量的な分析によってある程度の傾向を把握した上で、4年目を見据えて、時代の各階層に典型的な事例を選定し、「私の履歴書」の記述のみに頼るのではなく、その人物に関する他の資料も参照しながら、より詳細な事例分析を行い、具体的な家庭教育のあり方と当時の時代的社会階層的背景との関連について考察を行う。合わせて、当時の都市中間層における社会的規制、教育資源、学歴意識などに関する文献の渉猟も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度からの計画に従って分析対象とする標本を抽出したところ、一部の事例が前年度の標本と重なったことから、新たに作成しなければならないデータベース数が予定よりも少なくなった。そのため、研究代表者が作成した作業マニュアルに従って社会調査の経験を持つ研究補助者にデータベース作成の一部を担ってもらう作業において作業量が少なくなり、謝金支出金額も少なくなったので、その分を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と次年度配分額を合わせた625,475円の使用計画は次の通りである。物品費320千円(内訳:デスクトップパソコン170千円、パソコンソフト50千円、図書資料100千円)、旅費250千円、人件費・謝金55,475千円。
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