本研究は、自叙伝の分析を通して、近代日本の家庭教育の実態を、とりわけ父親の関与のあり方に着目して明らかにした。従来の定説どおり、時代が下るにつれて家庭教育に対する母親の関与が増大する傾向は見られたが、必ずしもそれに伴って父親が家庭教育から撤退し稼得責任のみに集中するようになっていたわけではなかった。少なくとも昭和初期まで、父親も、進路指南、職業教育、知育、徳育といった家庭教育の多様な側面に比較的強く関与する傾向が続いていた。そうした傾向は、旧中間層のみならず、母親が教育の中心を担っていたとされる新中間層においても確認された。
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