平成27年度の研究実績は、次の2点である。 第1に、「対話理論」の「交渉」の対話モデルにもとづく単元の開発を行った。単元は、中学歴史「気分は外交官!日米修好通商条約を締結せよ」である。生徒は、日本側と米側に分かれ、米側の要求した5つの条項を交渉して一致点を作りだし、条約を締結する活動を行った。この単元の分析から、交渉に特有な思考の特徴を明らかにした。この成果は、日本社会科教育学会で発表した。 第2に、「教科の本質」という点からコンピテンシー・ベイスの授業のあり方を明らかにした。教科の本質とは、社会科ならではの見方や考えである、ノルマントン号事件を扱った授業を、「正義としての公正」概念と「多角的な見方」を位置づけてコンピテンシー・ベイスの授業に組み換えた。この成果は、全国社会科教育学会で発表した。 本研究期間全体を通した成果は、次の通りである。本研究の目的は2つあった。第1は、学習科学のひとつである「対話理論」等を用いてワークショップ型授業論の発展を図ること。第2に、その成果を統合して、教員がワークショップ型授業を開発し運営する際の「授業構成ストラテジー」(指針と手立て)を明らかにすることであった。 第1の目的について。3年間の研究を通じて、対話理論の4つの対話モデルすべての単元開発を行うことができた。これにより、4つの対話に特徴的な学習者の思考を次のように明らかにできた。交渉は、相手の主張に必ず理由があると想定しそれを探索する思考、説得は、「根拠、主張、理由づけ」という論証全体を検証する思考を促した。探究は、推論を支える根拠に焦点をあてる思考、熟考は、実践的判断を内省し明晰にする思考を促した。 第2の目的について。対話理論による4つの対話は、社会科ならではの思考の方略であり、活動空間の設計と生徒の思考を教員が指導し評価する規準として位置づけられることが明らかになった。
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