研究課題
基盤研究(C)
本年度は研究の第一段階であり、社会が求める新しい能力としての美術的コンピテンシーの理論的フレームを検討した。具体的には、OECDのDeSeCoにおけるコンピテンシー概念(Rychen &Salganik,2003)と美術のリテラシー概念(Dondis,1974; Housen,2000)や美術における認知的能力の知見(Efland,2002)を比較しつつ、美術の文脈における新しい能力としてのコンピテンシー概念を構造化する試みを行った。特に美術的なコンピテンシーの内的構造については、Efland(2002)が着目する美術における認知的柔軟性や知識の統合、想像力、感性の働きを援用して仮説モデルを試作した。そして、その美術的なコンピテンシーの仮説モデルにおいて、美術活動での知識とスキルの活用、個人の内面からの感情や価値観の喚起、イメージや思いなどの位置づけを明確化した。さらに、美術的なコンピテンシーを美術における読解リテラシーと視覚リテラシーを内包する力として再定義し、その具体的能力の一例として、表現と鑑賞を通して視覚イメージとことばを相互作用的につなげ、考えを柔軟に組み立てる力に着目した。また、アートでの多義的表現や隠喩について柔軟に思考するうえで、視覚イメージとことばの相互の働きや影響し合うことの重要性を指摘した先行研究について検討した。特に視覚イメージとテキストの相互作用が表現そのものを成り立たせ、すでに現代アートや大衆文化において視覚イメージとことばは相互に作用して新しい不確実性を生み出しているとするParsons(2003)の知見と、子どもがことばと視覚イメージを多様に融合させた表現を「描画のレパートリー」として注目しているKindler(1999)の知見などから、美術的なコンピテンシー形成の意義を考察した。
2: おおむね順調に進展している
本年度に計画した美術的なコンピテンシーの理論的フレームの策定が、先行研究の批判的検討をもとに美術の文脈におけるコンピテンシー概念の明確化と内的構造のモデル生成により進めることができた。
平成25年度に策定した美術的なコンピテンシーの理論的フレームという成果をもとに、次年度は研究の第二段階として視覚イメージの喚起から言語活動の多様性につなげる力の指標を開発し、それを使用した実態調査により児童・生徒における発達的な特徴を実証的に明確化する予定である。
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