本年度は研究の最終段階であり、平成25、26年度の成果をふまえ視覚的イメージと言語の縦断的な相互関係について検討した。小学4年から7(中学1)年まで追跡して得られた86人のデータ(描画、物語作文、美術鑑賞)を分析した結果、それら3つの間の有意な相関が認められた。描画と物語作文、物語作文と鑑賞の相関は、前年度までの横断的分析でも示されていたが、今回の縦断的分析でも確認された。さらに学年があがるにつれて、描画と言語活動の相関の高まりも認められた。 また、4年間の経年変化の事例分析では、合計得点の高い事例や最終的に高まった事例では、描画と言語活動のつながりが相互にうまく機能していることが確認された。つまり、生徒は鑑賞の前に描画に取り組むことで、作品を注意深く観察し、彼らの視覚的イメージが刺激され、その後の鑑賞が促されていた。特に視覚的イメージの記憶は、時間を隔てて数年後の描画や物語作文にも応用されていた。また、視覚的イメージと言語が相互によく作用した鑑賞活動では、生徒は作品をよく観察して連想を広げ、鑑賞者としての視点を意識しつつ、作者の思いを想像し、考え、書くことにつなげていることが認められた。 一方、ワークシートに空白が目立った事例では、生徒は描画と言語活動とも十分に取り組めず、両者の相互作用が認められない状況であった。その状況は学習意欲や発達などの教育全体の課題と関連するものであるが、ワークシートによる学習方略の限界でもあった。特に描画が比較的よく描かれた場合に、それを効果的に生かして鑑賞での作品理解や意味生成につなげる方策の検討が必要であり、その学習支援ツールの開発が今後の課題である。 なお、これらの研究成果については、USSEA Regional Conference (ニューヨーク市)で発表した。また、台湾からの研究者を招聘したフォーラムで意見交換を行った。
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