単元学習の教材や指導法の背景にある数学の知識観や教育観を,戦前,戦後の数学教育の変遷の中で特徴づけ,数学教育における単元学習の背景にある教育思想を明らかにした。単元学習の導入にあたり,文部省が実施した指導者講習の記録や指導資料,学習指導要領,指導書,教科書の記述をはじめ,教育課程審議会や教科等調査委員会の会議録を基に分析をすすめ,戦後教育改革期の数学教育における単元学習の教材や指導法の背景にある数学の知識観や教育観を明らかにした。 単元学習の理念は,戦前,戦後の数学教育の変遷の中において見られる,既成の数学の知識や体系を子どもに教え込むものではなく,子どもが自分自身の活動から数学の知識やその体系付けられた理解を形成するという数学教育の思想と軌を一にするものであった。これは、戦前の数学教育改良運動において強調された教育理念にも見ることができ、戦中の数学教育再構成運動においては教科書教材やその編纂趣意書において明確に示されていた。 こうした戦後教育改革期の数学教育における単元学習を再評価することによって、従来の数学教育史において否定的にとらえられてきた単元学習を,戦前・戦中から戦後へと続く数学教育の連続性という観点から,数学教育史に位置づけることができた。また、戦前の数学教育改良運動や戦中の数学教育再構成運動においては,対立する教育理念間の論争があったことから、こうした対立構造の中で、単元学習の教育理念を見直すことができた。特に、数学の系統的な学習指導と子どもの構成主義的な数学学習との関連は、数学教育史における単元学習を価値づける有効な視点となった。
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