研究課題/領域番号 |
25381169
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
二宮 裕之 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (40335881)
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研究分担者 |
相馬 一彦 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40261367)
國宗 進 静岡大学, 教育学部, 教授 (50214979)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 数学教育 / 授業研究 / 才能教育 / 国際研究者交流 / アメリカ / よい授業 / 授業観 |
研究概要 |
アメリカ・ユタ州のBrigham Young 大学のPeterson教授、Corey准教授と連携し、日米の比較研究を進めた。4月から6月にかけて、二宮がBrigham Young 大学に長期出張し、Travis Lemon教諭(American Fork Jr.High School)、Carol Day 教諭(Hobble Creek Elementary School)といった先生方によるMath for Excellenceを主眼とする授業実践を観察・検討した。 並行して、日本国内での授業研究も、旭川・静岡・埼玉において精力的に進めた。9月には北海道旭川市立永山南中学校・沼澤和範教諭による「二次関数の導入」の研究授業、1月には静岡県藤枝市立青島中学校・太田郁美教諭による「中点連結定理の利用」の研究授業、静岡県焼津市立大村中学校・川嶋久実教諭による「平面図形」の研究授業、などに、研究分担者である静岡大学・國宗教授、北海道教育大学・相馬教授とともに参加し、「よい授業」の要件を探った。 更に1月から2月にかけて、アメリカにおける研究協力者であるBrigham Young 大学のPeterson教授、Corey准教授を日本へ招聘し、研究交流を深めるとともに、日米合同の授業研究会を行った。埼玉と静岡の学校において、埼玉大学附属中学校・岸本航司教諭「オイラーの多面体定理」、埼玉県入間市立向原中学校・森田大輔教諭「資料の活用」、静岡県磐田市立城山中学校・近藤正雄教諭「おうぎ形の中心角」、埼玉県和光市立第二中学校・井田まゆみ教諭「立方体の切断」、を5名の数学教育学研究者とそれぞれの研究グループの先生方と参観し、「よい授業」に関する実証的検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「よい授業」をテーマとした検討は、特に実証的なところで大きな成果があった。個々の事例について、複数の研究者とそれぞれの研究グループの先生方による検討会において、日米の視点から活発な議論がなされ、その成果は以下の3点に集約される。 ① 日本の算数・数学の授業では、問題と課題を区別して授業を進めることが多い。問題とは授業での問題解決を行う際のシツエーションに相当し、当座の解決目標である、それに対して課題とは、問題の解決を通して獲得・習得すべき事柄を指すことが多く、一般にはある特定の問題を解くことではない。このような構造は、算数・数学の問題を解決することを通して、より高次の認知的能力の獲得を目指す数学指導観を背景としたものと考えられる。 ② 日本で行われる授業研究において、私たちが重視する事柄の一つが教材研究である。この教材研究という用語は、アメリカでもKyozai kenkyu という言葉がそのまま用いられているように、日本の数学教育に独自の考え方とされる。今回の授業研究では、事前の教材研究、研究授業、授業後の検討会、といった一連の流れの中で、教材を捉えた。 ③ 日本の算数・数学教育に特徴的な事柄の一つが、問題解決の授業である。それは単に問題を解決して終わりではなく、学習者が解決した複数の方法を比較検討することで、更に深い数学的な考えや概念の学習を図ろうとするものである。ここで重要となるのが、問題解決学習の「流れ」と、練り上げにおける「しかけ」である。問題解決学習において、どのような発問をどのタイミングで行うか、どのような考えをどのように取り上げるか、など、授業の「流れ」を意識するとともに、練り上げにおいて学習者の思考がより深まるような考え方や活動をどのようなきっかけで引き出すか、といった「しかけ」を事前に深慮することが望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に現場の先生方と一緒に進めてきた実証的検討を踏まえ、事例を元にそれを一般化することを試みたい。「よい授業」の要件をその外延において規定するとともに、内包的な規定を探る。特に、Math for Excellenceとの関わりで、「学習の深化(enrichment)」に焦点を当て、「よい授業」の要件を明らかにする。具体的な方法として、平成25年度に引き続き、埼玉・静岡・北海度のそれぞれの地区会での定期的な授業研究をもとに、お互いにそれぞれの地区を訪問しながら、実践研究を深める。そこには、研究代表者・分担者が授業検討に参加し、理論的な背景を踏まえた上で授業評価を進めていく。 更に、日米の比較研究を積極的に進め、日本の数学教育において「当たり前」となっている事柄を、アメリカの視点から見出すことに期待している。Brigham Young 大学のCorey准教授とは定期的にインターネットを介して研究協議を進めている。週に一度のペースで進めているネット会議を充実させ、研究代表者・分担者を交えた議論へと発展させたい。現時点で、よい授業の要件として、「Background Domains」「Feature Domains」の大きく2つの領域を理論的枠組みとして捉え、Instructional Contextsを素地としてInstructional Goalsの達成がなされる「よい授業」を成立させる要件として、Core Features、Support Features、Surface-level Featuresの3つの特質をモデル化している。このモデルに日米の実証的な検討の成果をあてはめて考察を進め、特に「よい授業」に必須の要件である「Core Features」の具体的様相を実証的に示していきたい。
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