最終年度は、これまでの実態調査をもとに、本研究の目的である書字過程を重視した教材を作成した。 まず、運筆の原理をわかりやすく説いたペン字本を出版した。字形は、筆記具が紙面に接して出来た部分であるが、空中で筆記具を合理的に動かすことによって効率良く書くことができ、字形を整えることができる。筆順にしたがって書く意義はこの点にあり、次画へ移行する最短もしくは合理的な順序を辿る。その運筆のしくみをペン字本にして公開した。 次に、動画教材を制作した。鉛筆の持ち方の解説は多くなされているが、動かし方についての解説は少ない。動かし方については、どの指がどんな線を引くときにどう動くか、点画ごとの動かし方、丁寧に書くときと速く書くときの始筆の動かし方の違いなどを、動画教材として撮影・編集し、DVDに収めて活用できるようにした。 また、硬筆書写教育の歴史を、「筆意の消失」という書字過程に焦点をあてて、今後の硬筆書写教育の展望とともに論文にまとめた。社会問題にもなった変体少女文字や長体ヘタウマ文字の出現にも言及し、横書きをする上での社会現象という新たな切り口から捉え、これらが合理的な運筆方法であることを論述した上で、横書き社会の現状には合っていない「毛筆文字の硬筆化」という伝統的な硬筆書法が支持され続けていることに言及した。 さらに、文字習得入門期の平仮名・片仮名教材も制作した。硬筆練習帳として出版が決定しており、広く公開する。文字習得期にある幼児の書字の実態を観察・分析したところ、字形と運筆に相関関係があることがわかった。字形がうまく書けない子供は線が震えており、運筆がたどたどしいという共通点がある。運筆をスムーズにする教材として、終筆の筆遣いに着目して、「ぴょん、ぴたっ、すう」のリズムで書くことを促すなど、運筆リズムの習得がしやすい教材を作成した。
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