本研究では、理科授業における子どもの批判的思考力を測定するとともに、それを育成するための具体的な指導法を開発することが目的であった。そして3年次(最終年度)では、前年までに明らかにした児童・生徒の実態を踏まえ、理科授業において子どもの批判的思考力を育成する指導法を開発した。 具体的には、Banham(1998)およびPaul & Elder(2001)の考えを参考にし、初めは他者の意見や考えに対して批判的に思考させ、その思考経験をもとに、次は思考の対象を自分自身の意見や考えに移行させることによって、子どもの批判的思考を促すという指導法を開発した。実際に小学校の理科授業において実践し、開発した指導法は、児童が根拠を重視して実験方法の妥当性を吟味したり、一度考えた実験方法を反省的に思考したりする力の育成に寄与したことが明らかになった。 3年間の研究により、まず、理科授業における子どもの批判的思考力を測定するための質問紙(35項目、5件法)を作成するとともに、それを用いて小学生の実態を調査した。その結果、児童の探究的・合理的な思考に比べて、反省的な思考や根拠を重視しようとする意識が低いことが明らかになった。また、探究的・合理的に思考している児童ほど、反省的に思考したり、意見の根拠を重視したりしていることが明らかになった。 次に、中学生を対象にして、小学生と同様の調査を行った。その結果、生徒の探究的・合理的な思考や多面的な思考、健全に懐疑する気持ちには違いは見られなかったが、反省的な思考は、これらに比べて働いていないことが明らかになった。 以上の調査結果を踏まえ、前述したように「初めは他者の意見や考えに対して批判的に思考させ、その思考経験をもとに、次は思考の対象を自分自身の意見や考えに移行させることによって、子どもの批判的思考を促す」という段階的な指導法を開発した。
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