研究課題/領域番号 |
25381203
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石井 由理 山口大学, 教育学部, 教授 (70304467)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 学校音楽教育 / ナショナル・アイデンティティー / 文化のグローバル化 / 台湾 / シンガポール |
研究概要 |
主として台湾における学校教育と文化政策に関する文献調査を行うと同時に、台湾とシンガポールの大学生を対象とした質問紙調査実施の準備を進めた。その結果、順調に協力者との調整が進んだため、これら2カ国での質問紙調査の実施の時期を1年早め、9月に台湾の3大学の大学生約250名と一部の保護者を対象とした音楽的アイデンティティーに関する質問紙調査を実施し、年度後半ではそのデータの整理を行うとともに、3月にシンガポールの大学生32名を対象とした同様の内容の質問紙調査を実施した。また、シンガポールに関しては、調査に協力してもらえる大学生数が少なかったため、現地の教育関係者への聞き取り調査と大学図書館での文献調査、教科書等の資料収集も併せて行った。 台湾での質問紙調査に先立って、その歴史的・文化的背景、教育政策に関する文献調査を行ったが、その結果、質問紙で用いるキーワードが、政治的にとられることが懸念されたため、問題がないかどうかを現地協力者に確認したうえで、中国語に翻訳する作業を行った。また、文献調査から、台湾においては1990年代に教育内容を台湾化、郷土化する動きがあり、それ以後のカリキュラムで学校教育を受けた現学生と、それ以前のカリキュラムで教育を受けた保護者世代との違いが重要であることがわかったため、回答者に対して、可能な範囲で保護者にも回答してもらえるよう、協力を依頼した。結果として20名ほどの回答を得ることができた。 カリキュラムや教科書の内容に関する研究は多数存在するが、それに基づいた教育を受けた側に対する実証的研究はなく、上記の質問紙調査は意義のあるものである。また、台湾で行った保護者への質問紙調査は、回答数は少ないが、国の教育政策の違いが個人の文化的アイデンティティーに与える影響を考察するうえで貴重なデータであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、25年度は文献調査が中心であり、それと並行して質問紙調査に協力してもらえる台湾とシンガポールの大学との調整を行う予定であった。しかし、24年度末に台湾を訪問する機会があり、その際に回答者として望ましい条件を備えた学生を有する二大学の研究者と知己を得た。このため、予定していた山口大学の交流協定校への依頼をすることなく、台湾での質問紙調査の準備が進み、9月にはさらに1校を加えた3大学において質問紙調査を実施することができた。また、そのデータの整理・分析に関しては、山口大学大学院東アジア研究科博士課程在籍の台湾人学生と同課程卒業生の台湾人研究者の協力を得ることがきたため、文献やインターネットからの情報だけではわかりづらい、現在の台湾の若者の音楽文化の知識を活用した分析が進んでいる。 シンガポールでの質問紙調査は、すでに既知の関係にあった音楽教育の研究者に協力を依頼し、3月に実施可能との回答を得て、予定より早く行うことができた。また、調査のためのシンガポール訪問時には、同研究者の計らいによって、同僚の音楽教育研究者との情報交換の機会を得た。さらに、他の複数の知人を通して、中国系、マレー系の初等・中等学校教員への面接調査も実施することができたほか、国立教育院(NIE)図書館において、今回の調査を分析する際に大変重要な手掛かりとなる、1990年代までのシンガポールの小学校における音楽教育の実態を研究した博士論文を調査することができた。
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今後の研究の推進方策 |
台湾とシンガポールの現地における質問紙調査の実施が早期に可能になったため、25年度はこれらのデータを集めることを中心に研究を進めることとなった。このため、当初予定していた、教育・文化政策に関する先行研究や両国の音楽教科書の分析等の文献調査の方が、ある程度並行して行ったとはいえ、まだ不十分である。これらの情報は入手した両国学生による質問紙への回答を分析する際にも不可欠であるため、質問紙データの整理をしながら進めていく予定である。同様に、シンガポールで行った面接調査の結果も、まだ記録を文字に起こした段階にとどまっているため、文献調査の情報を合わせて分析していく必要がある。 台湾に関しては、すでに質問紙回答データの入力はほぼ終了し、一部データの分析が可能になりつつある。そのため、この部分に関しては、5月中に分析結果を取りまとめ、文献調査の結果と合わせた途中経過を7月のInternational Society for Music Education 世界大会において口頭発表するとともに、今年度後半に論文として投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では次年度に実施する予定であった台湾とシンガポールにおける質問紙調査が早期に実施可能となったため、25年度に実施した。そのため、次年度に使用する予定であった同調査のための助成金の前倒し支払い請求を行ったが、その際に請求できる金額が10万円単位であったため、実際に使用した金額との間に差が生じ、次年度使用額が生じた。 25年度におもに行う予定だった文献調査と、26年度に行う予定であった質問紙調査の順番がほぼ入れ替わったため、次年度使用額は26年度に行う台湾とシンガポールの教育・文化政策に関する文献調査のための文献購入に充てる。
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