研究課題/領域番号 |
25381216
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
三澤 一実 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (10348196)
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研究分担者 |
東良 雅人 国立教育政策研究所, その他部局等, 研究員 (70619840)
米徳 信一 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (80240381)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 造形批評力 / 校種間連携 / 鑑賞教育 / 協働 / ワークショップ / ファシリテーション / 言語化 |
研究概要 |
研究は次の4つの取り組みを通して造形批評力を獲得する方法を明らかにし、具体的プログラム開発を構築していくものである。実践するプログラムは、A「対話による鑑賞プログラム」、B「ワークショップによる題材開発」、C「学生による公開制作」、D「School Art Project」(学校を一時的に美術館にする取り組み)である。 本年度は、Aに関しては17校で実施。Bについては5件実施。Cは2校。Dは2校。計26件のプログラムを行った。 上記の4つのプログラムで行われる校種間交流鑑賞の場面において、対話する視点や扱う言葉によってどの様な造形的な気付きが生じるかを調査ししていく中で。造形批評力を育むキーワードとして、ファシリテータの質問力が浮かび上がってきた。これまでは、ファシリテーターは造形作品についてその内容を話す力という視点で造形批評力が育成されると捉えていたが、視点を変えて、作品について質問する力という視点で造形批評力を育成していくプログラムの方が有効ではないかという視点である。この実証は次年度の研究の課題となる。次に、具体的プログラム開発であるが、大学の科目で、学部1・2年を対象に「造形と批評」というプログラムを開設し、そこでの検証を試みた。そのカリキュラムは造形批評の能力を、「鑑賞」「言語化」という切り口で如何に育てられるかというプログラムで12回実施した。このプログラムの成果と課題は、内容が学部1・2年にしては高度でありすぎたという反省点が寄せられた。しかしながら、「言語化の中で、鑑賞力が意識され深く鑑賞することができるようになった」という感想もあり、次年度引き続き改善実施していく課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
造形批評力の獲得を実現する、普遍性・汎用性を持った校種間交流の鑑賞プログラムを構築という点では、全26件のプログラムを実施し、ある程度普遍的なプログラムの骨格が見えてきた。しかしながら、そのプログラム実施におけるファシリテーションを可能にする造形批評力の具体的な能力育成に関わる方法についてはまだ検証を行う必要がある。特に、研究を通して見えてきた、作品に対する「質問力」という能力育成に関わる具体的な視点については、本年度の研究の終盤に見えてきた視点である。よってこの「質問力」という視点が造形批評力の獲得に有効かどうかは来年度の研究に委ねるとする。 美術科教員の質的向上に関しては、常にプログラム実施に関して相談、打ち合わせを実施し、課題と成果を共有していく手法をとっている。特筆できる事例としては、小学校の校長が実施後に大きく意識が変化した事例である。校長は実施したプログラムを見学し、是非次年度も実施したいと強力な要請がでた。ほかにも、同様の意見や感想も多く、それらを次年度は報告書としてまとめ検証していく計画である。 海外のプログラムの検証は、以前作成した記録集止まりで進展がない。なぜならば、事例が1件のみで、客観的データが不足していることが挙げられる。よって、来年度は海外プログラムを実施して、その事例と比較してまとめていきたい。 自己評価を充実させる方法開発-「記録と表現」の充実に関しても、本年度は実施ができずにいる。本年度のプログラム実施件数が多かった点と、実施期間が集中してしまった点が課題である。しかし、実践発表会を行い外部からの見学者も入れて報告をさせたところ、発表者に関しては十分に自己評価ができていた。参加者全員となると、発表の機会を得なかった学生に関しては十分とは言えない。次年度は報告書等の編集を通してこの課題に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
I.実践研究の中で造形批評力を育む言葉を明確にしていく研究については、引き続きワークショップなどのプログラムに取り組む中で展開していく。特に課題でも挙げた「質問力」という視点で活動を映像に残し分析していく予定である。 II.プログラム開発を通して造形批評力を育む学習場面を整理していく研究に関しては、現場教師と協働で作り上げていくプログラムを充実させていく活動をする。毎年実施校を変えるのも良いが、何校かは継続して実施し、どの様な言葉かけや働きかけが造形批評力を育成する上で重要な要素となるか分析したい。造形批評力が伸びると思われる学習場面を整理するなかで、造形批評力を延ばす指導の要素を明らかにしていく。また、今までの活動の様子を振り返えり、文章に起こしていくことにより、このプログラムを体験した人から見た成長を確認していきたい。 III、日本、上海との比較を通してのプログラムの普遍化、一般化を図る研究に関しては、プログラムを「対話による作品鑑賞」に絞り込み、すでに実施した上海の中学校と、今度行うフランスの高等学校とをサンプルに、国内の中学校と比較をしていく。海外比較は、鑑賞行為の普遍性の検証をテーマに対話を成立させる要素の抽出、文化比較、学生交流による学びに対しての意識変化を調査していく。造形批評の力を生かした鑑賞活動のプログラムが、それぞれの国の文化を越えて普遍性を持ったプログラムになり得るか検証していく。 IV.自己評価を充実させる方法開発-「記録と表現」の充実に関しては、引き続き実践報告会を開き多くの学生が報告できるようにすると共に、記録集の編集を通して自己評価の充実を図っていく予定である。
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