スペインでは2013年にLOMCE法(教育基本法)が成立したが、制度移行過程にあるためにそれ以前のLOE法に基づく義務教育課程における価値教育の実態をまとめた。とくにスペインの学校制度に特有といえる「政府の助成金を受ける私立学校」の性格、そしてその初等教育課程におけるカトリックに基づく宗教教育の授業およびシティズンシップ教育の授業の特徴を明らかにした。具体的には、2013年度及び2014年度に行ってきた学校における授業観察や教員インタビューをもとにして、「カセレス司教区学校の初等教育課程の事例にみる価値教育の実際ー授業観察と担当教員への聞き取り調査報告ー」と題する論文にまとめた。 2016年2月には、スペイン科学研究高等会議(CSIC)研究所の研究員の立場を得て、現地調査や、セミナーにおいて研究報告を行うことができた。カセレス司教区学校の初等教育課程の宗教の授業観察を行うことにより、新たに子どもたちに「Dios」概念を教える具体的方法を把握した。グアダルーペ宗教学高等研究所主催のセミナーにおける研究報告については、同校教授のD. Manuel Lazaro Pulidoからは宗教学の観点から、そしてD. Bernardo Villasanz教授(福岡大学)からはカルチュラル・スタディーズの観点から詳しい解説やコメントを戴いた。とくに、日本とスペインとでは、子どもに対する「友情」や「責任」の説明方法に違いがあることや、日本の「おもいやり」概念は日本文化に特有の概念であることなど、今後の研究課題を確認した。 これまでにスペイン国内のセミナーで日本の教育基本法と学校の道徳教育との関係について説明する機会を得てきた経験をもとにして、「我が国の義務教育課程における道徳教育のあり方ースペインの価値教育研究からの提案ー」と題して日本道徳教育学会において報告することができた。
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